「数字錠」はここです。
御手洗潔の挨拶 ♪♪♪♪
 御手洗もの初期四作を収める。いずれも御手洗シリーズになくてはならない作品であろう。

「数字錠」−吹田電飾という看板製作会社の社長が密室で殺された。容疑者たちはいずれも犯行を行い得ない者ばかりだ。そして何故か御手洗は吹田電飾の社員寮へと通い始める・・・
「疾走する死者」−マンションの一室から男が姿を消した。その13分後、彼は全力で疾走しても13分ではたどり着けないほど遠く離れた線路上で死体となって発見された。
「紫電改研究保存会」−さえない英字新聞の記者の前に突然、「紫電会研究保存会」会長と名乗る男が姿を現わす。
「ギリシャの犬」−タコ焼き屋さんの屋台が盗まれ、あとには暗号のようなものが書かれた紙が落ちていた。

 名作ぞろいの一品。トリックもなかなかですが、小説としても読める作品が揃っています。特に「数字錠」は御手洗もの短編を語る時には必ずと言っていいほど話題に昇る、有名な短編。
「数字錠」(♪♪♪♪)
 非常に面白い短編。トリックや謎自体はまあそこそこであるという気がしますが、特筆すべきはその情感。(私は大半生きていなかったですが)70年代という時間の匂いを感じさせてくれますし、御手洗の人間性というか、そういうものもよく出ています。また、竹越の変貌も含め、後に島田荘司の小説のテーマとして重要になってくる、「日本人男性論」が、全編を貫く構造になっています。謎が大体解けてしまったとしても、充分引き込まれる作品です。ただ、その点において、ミステリファンには少々賛否を呼んでしまう作品なのかもしれません。私は賛です。大好きです。これ。感動したもん。
「疾走する死者」(♪♪♪♪)
 錯綜した状況が面白いです。トリックは何となく分かっても、そのトリックが発生したのはなぜなのかという答えにはギョッとしました(笑)。また、ジャズ関連のネタがたくさん出てきます。いろいろ勉強になりました。語り手は石岡君ではなく、「嘘でもいいから」シリーズの隈能美堂巧氏。
「紫電改研究保存会」(♪♪♪♪#)
 小粒でピリリと辛い短編の見本のような作品。わずか40ページの間に不可解状況、数多くの大胆なヒント、御手洗の変人っぷり、そして心優しいメッセージが凝縮されています。また、島荘作品といえば大袈裟な描写が特徴なんですが、この作品は抑制がなかなか効いているのがプラスにはたらいています。暑い昼、セミの声だけが響いていそうな静かな雰囲気や、少しだけ出てきて作品にメリハリをつける御手洗、さりげないラスト。う〜んいい。
「ギリシャの犬」(♪♪♪#)
 御手洗を楽しめる作品。謎もいいデキだと思います。これといった大きな特徴はないですが、御手洗の過去が少しだけ分かります。