石岡君、失業中!
アトポス ♪♪♪♪
 大作御手洗もの第四作にあたるが、この本が初めて出た時には、その分厚さに世の島荘ファンは圧倒されたというウワサ。

 アメリカ・ハリウッドで作家のマイケル・バークレィが何者かに殺害され、女優のシャロン・ムーアが「ヘルプ・ミー」という書き置きを残して姿を消し、街の住人の子供が次々に殺害されるといういくつかの事件が間をおかず発生した。これら一連の事件の陰には、なぜか異形の「怪物」の姿がちらつく。

 面白い!
 この一言に尽きます。「長い前奏」は一箇の小説として実によく出来ており、一気に読ませます。それを含めて全編に流れる猟奇的な血の匂い、島田荘司なればこその大トリックと、随所に読者を飽きさせない工夫や見せ場を配置しています。御手洗の登場シーンも面白すぎ。時々笑わせてくれるのは島田作品の大特徴でしょうね。あの『水晶のピラミッド』からほぼ登場人物を引き継いでいるのも、分厚いこの本を読ませる工夫の一つかも知れません。無論以後の御手洗シリーズへの布石という意味もあろうかと思われますが。
 さて、不満といえば、(少々詭弁的ですが)不満が特に見当たらない点でしょうか。私としてはこの分厚さも気になりませんでしたし、作品の空気にも満足しています。純(?)本格的な作品ですが、実は裏側を貫く形で社会派的要素が大胆に(実に大胆に!)組み込まれているのも、嫌味がなくていいです。細かい不満ならいろいろと出てきますが(主要トリック二つのうち、一つは、今だに仕組が何となくしか分からないとか(笑)、石岡君が出てこないとか(爆))、『水晶のピラミッド』のような物議を醸すような不満がない、これが物足りない・・・かな?いや、トリックの大がかりさなんて、いかにも賛否が分かれそうなんですが、もう慣れたと言うか・・・う〜む。
 ひとつ明らかな不満点を挙げるなら、伏線の張り方と種の明かし方のバランスが少し危ういかも知れないということ。しかしそれが作品全体の質を下げていることは決してないと思います。