石岡君受難の日々
御手洗潔のダンス ♪♪♪#
 御手洗ものが大作シリーズ路線に移行する前の最後の一冊。講談社文庫版には、正にファンサービスといった趣向の「近況報告」を収める。

「山高帽のイカロス」−普段から「人間は空を飛べる」と言うアル中の芸術家。意味不明の声を残して、彼が自室から消えた。部屋の窓は開け放たれていた・・・
「ある騎士の物語」−恋人を捨て、仲間を裏切って去った男が死体となって発見された。しかし、疑われる人物の中で推定時刻に殺害現場へたどり着くことができた者は誰一人としていない。
「舞踏病」−高額の家賃を払うからと言われ、ひと月の約束で男は老人を自宅に住まわせた。しかしその老人は夜毎、まるで狐憑きのように踊り狂う。不安に思った男は御手洗に相談をもちかけた。
「近況報告」−謎に包まれた御手洗のプライベートの扉が、今開く。

 三編と数は多くないものの、きっちり読ませる短編集。しかし『挨拶』ほどの満腹感は無いか?
「山高帽のイカロス」(♪♪♪#)
 単純な要件がいくつも集まって奇妙キテレツな事件を構成しています。それだけにじっくり読み込むと少しずつ謎が解けていき、うまくいけば御手洗と同じ快感を味わえることでしょう。ツボを抑えた短編。さらに石岡君の気弱な一面や、御手洗のおちゃめな一面も見られます。
「ある騎士の物語」(♪♪♪#)
 御手洗ものは、島田ミステリ理論を実践するという意味からか、神秘的・幻想的な外観を持った作品が多いのですが、『異邦の騎士』に代表される「若さから来る陰」を背負ったような、悪く言えば生臭い、神秘からは程遠い作品もいくらか存在します。この作品も後者に属するでしょう。センチメンタルに男の恋心を綴った作品です。ただ、女の人の描き方がなんともえげつない、と言いますか・・・。この作品を読んだ私の友人がいたく共感していました。ロクな目を見てこなかったんでしょうねぇ(^^;)。・・・ちがうか。
「舞踏病」(♪♪♪#)
 中編。実に奇妙な事件です。ラストもなかなかに意外。特筆すべきは、御手洗ものにしては珍しく社会問題を直接的に扱っている点。吉敷もののように社会問題が違和感なく作品に溶け込むというわけにはいっていないようですが、後の『眩暈』のような消化不良を起こしているわけでもありません。この頃の御手洗はまだまだ鋭かったから?
「近況報告」(あなたが決めてください)
 楽しいファンサービス。御手洗の普段の姿が、石岡君により赤裸々に語られます。御手洗と石岡君が抱き合うシーンもあります。その筋の女性ファンの方は楽しんでください(笑)。またまた社会問題について御手洗が言及する部分もあり。ただしグローバルな問題についての言及であり、御手洗に似合いです。