社会派御手洗
眩暈 ♪♪♪#
 大作御手洗もの第三作。これまた賛否の分かれる作品。御手洗ものの中では屈指の社会性を持つ。異質とも言える。

 『占星術殺人事件』のファンが書いたという奇妙な手記が、彼の恩師、古井によって御手洗のもとへ持ち込まれた。古井は手記に心理学的な分析を加えようというのだが、御手洗はそこに書かれたことが全て事実だと主張する。しかし、手記の内容は事実と主張されるには余りに怪奇的、幻想的だった。

 実に賛否の分かれる作品、『眩暈』です。小説構造的には、本編に一本別の小説を織り込むというファンにはすでに馴染み深い、「島田荘司的手法」を使用していますが、小説のテーマが一風変わっています。
 この小説における重要な登場人物は、薬害問題の犠牲者なのです。このことはもちろん作品のテーマに深く関わってくる問題です。いや、このこと自体が作品の性質を決定してしまったと言ってもいいかもしれません。こういう人物が、作品に深く関わったということは、とりもなおさず御手洗が、この人物が背負う問題に立ち向かうことを意味します。いわばこの作品は「社会派」御手洗なのです。
 薬害問題という日本の抱える闇(日本だけが抱えているわけではないですが)。また、環境汚染に関する記述も、『眩暈』には頻出します。これらの問題に御手洗が立ち向かうことに違和感を感じるのは、私だけでしょうか。吉敷ならなんとかやってくれるかもしれない。しかし御手洗が・・・?この危惧がきっちり打ち破られればよかったのですが、『眩暈』においてそれがなされたとは言い難いです。ミステリとしては面白い作品ですが、社会問題を全面に押し出しているのだから、それに関する解決をすっきり見たかった。御手洗の見せた解決では何か消化不良です。ストン、と見知らぬ土地に落っことされておしまい、といった感じ。そこの辺りを考慮にいれ、物語としてかなり面白い作品であるにもかかわらず、辛めの点数をつけてみました。
 さて、この作品でひとまず(ひとまず、ですよね・・・)、御手洗と石岡君がコンビで事件に立ち向かう新作長編は跡絶えてしまいます。寂しいっ!