そ、それってアリですか!!!
水晶のピラミッド ♪♪♪♪
 大作御手洗もの第二作。賛否の分かれる作品だが、これぞ島荘といった趣き。

 アメリカ。地上三十メートルにある密室において大富豪が「溺死体」となって発見された。現場の傍には、建造目的不明のガラスのピラミッドが悠然と建つ。
 古代・近代・現代。エジプト・アメリカ・日本。遠く離れた時間と空間を繋ぐのは、名探偵・御手洗潔!

 あらゆる意味で特別な大長編。この作品に関しては、光文社文庫版『龍臥亭事件』の最後において、二階堂黎人氏が素晴しい解説を加えられているので、興味のある方は是非一度読んで頂きたいです。
 その繰り返しになるのは覚悟の上で、ここにも『水晶』の解説を述べたいと思います。誰も信じてくれないでしょうが、似たようなことを私も考えたことがあったんですよぉ。
 さて、この作品の何が凄いって、まずトリックです。大規模物理トリックは島荘の十八番ですが、この作品ではその極みとも言うべきトリックが登場します。あまりに大規模すぎて、そのトリックは荒唐無稽に思えてしまうのですが、そこが凄い(しかもその荒唐無稽なトリックを、最終的にこの作品のような形で完結させるのも実に面白い)。通常、ミステリの物理トリックと言えば「針と糸」という言葉に代表される細かいものを連想しがちです。そう、ミステリのトリックが殺人のために考案される限り、部屋をどうする、凶器をどうするという着想から抜けることは非常に難しい。しかし、それを易々と抜けてしまったのがこの作品なのです。そこがこの作品の凄いところ、その一です。
 その二が、この作品の小説的構造。二階堂黎人氏が述べているように、この作品は、作品の各部に伏線をちりばめるという従来的ミステリの手法に安住していません。伏線として、別の小説そのものを作品に埋め込んでしまっているのです。この手法は、この時期あたりから明確な形をとり始め、以後、島田ミステリにおける重要な構造となっていきます。
 その三が・・・解決編のカタストロフィ。是非読んで下さい。「やっていいのか!?」という声も。私の友人は激怒していました。私は半泣きになりました。あなたはどう見ますか?

 さて、難しい話はここまで。ミーハー的な視点でこの作品を読み解くと・・・やはり重要な一作だ〜!何より重視したいのが・・・御手洗と石岡君とレオナの転覆トリオ(笑)がきっちり事件を解く、最初で最後の作品かも知れないということ。何しろこの後に続く作品が・・・レオナ欠場の『眩暈』、ああ石岡君失職『アトポス』、御手洗が去った『龍臥亭事件』なのです・・・これらの作品は、ある意味三者三様の転機であり、御手洗ものとしてはどこか変化球的です。そういう意味でこの『水晶のピラミッド』は、変人御手洗、弱腰石岡君、わがまま姫レオナが一致団結して(?)大事件を解決する、(前述のとおり三人がきっちり登場するのはこれが最初であるのに)懐かしい香りのする作品だと、私は思っています。
 最後に、御手洗・レオナ的に言っても、『水晶のピラミッド』は重要な作品でしょう。ああ、御手洗ファンの拳がうなる!?