裏・ポルシェ911の誘惑
ひらけ!勝鬨橋 ♪♪♪♪
老人ホームを舞台にしたユーモア・ミステリー。他の作品とのクロスオーバーは無いようである。

 千葉県のO老人ホーム「竹の子寮」の住人たちが作るゲートボールチーム「青い稲妻」。ルールすらよく覚えていない弱小チームの彼らは、ボランティアの翔子ちゃんにも見放されてしまった。一念発起して基礎練習からやり直す「青い稲妻」だったが、ある日突然地上げ屋たちが訪れ、「ホームを出てゆけ」と言う。

 エンタテインメント味あふれる、なんとも面白い作品。タイトルを見ても粗筋を見てもそんな雰囲気は伝わってこないのですが、実は島田荘司の自動車趣味が遺憾なく発揮されています。
 他のところでも書いたように、島田荘司のユーモア小説はクドい。そして、この作品も実にクドい。いや、二回続けて言ってもいい。クドクドしい。そもそも老人を扱った作品なので、そりゃ酷いんでないか、というくらい老人をこき下ろして笑いのネタにしてしまっています。
 しかしこの「小説内老人イジメ」(?)も、実は後半部分への布石。前半部分の意地悪い描写で、登場人物も読者も閉塞状態になってしまっているからこそ、後半の爽快さが効いてきます。後半の、ポルシェ911を軸にした、悪ノリというくらいノリにノった描写の迫力といったらもう凄まじいものがあります。島田氏、本当にポルシェが好きなんだな、と思いますね。
 作品の中盤ではゲートボールの試合が行われるのですが、これも見もの。多分、世界一緊張感の溢れたゲートボール描写でしょう。作品全体がそんな具合で、エンタテインメント色が強く、大変楽しめます。社会的なメッセージは弱いですが、その分「元気でやろうよ」と、ひとりひとりの心に訴えかけてくる作品です。