静謐。
死者が飲む水 ♪♪♪#
 島田荘司の第三長編で、御手洗・吉敷もの両方にしばしば顔を出す名脇役、モーさんこと牛越佐武郎刑事唯一の主演作品。

 札幌。実業家、赤渡雄造の自宅に、赤渡自身の死体が詰められたトランクが二つ届いた。トランクは離れて暮らす二人の娘たちが発送したもので、彼女たちは死体など全く知らないと証言。赤渡の死因は溺死。それも銚子で殺されたと推定される。一体赤渡は誰に、何故殺され、トランクの中身はどのタイミングですり替えられたのか?牛越佐武郎が怪事件に挑む。

 至って元気、人を喰った様な御手洗が主人公の作品と比べて、のんびりゆったり優しいモーさんが主人公のこの作品には、常に落ち着いた、静かな雰囲気が漂っています。しかし眼前に立ちはだかるのは猟奇的な超難事件。御手洗のような神の目は持たない、至って凡人のモーさん。行きつ戻りつ、少しずつ真相に近づきます。それがもどかしいとも感じるのですが、たまにはこういうのも良いですね。
 島荘ならではのド派手さはないものの、物語自体はすっきりまとまっています。そしてなにより、味わうべきはモーさんの人柄。犯人との対決シーンのたどたどしさ(失礼)は見物です。しかしその後、ラストに見せた優しさが心に染みます。