漱石と倫敦ミイラ殺人事件 | ♪♪♪♪ |
初期の島田荘司作品群の中では『占星術殺人事件』『斜め屋敷の犯罪』などと並んで評判の高い作品。 倫敦へと留学してきた若き夏目漱石は、夜ごと下宿先で奇妙な物音や声を聞く。亡霊の声ではないかと悩む漱石。彼は思いきってベイカー街のシャーロック・ホームズを訪ねた。 |
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評判に違わず、とても面白い作品!漱石の文体とワトソンの文体とで交互に語られるという凝った構造が作品を引き締めている印象です。二人を通して語られるホームズ像も大変面白い。何せホームズに関する二人の描写は微妙に食い違っているのです。真のホームズとはどんな人物なのか、その解答は作品では語られません。みんなで考えましょう!ということなんでしょうね。 メインのミイラ事件に関しては若干小粒な印象も受けますが、安定したつくり。また、この事件を中心にしていくつかの謎を絡ませているのも島田荘司らしい。『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』は、漱石とワトソンの文体が繰り返し出てくるところも含め、実は大変にテクニカルな構造を持っているのです。全てがほどけた時の快感は、ただのパロディ小説の領域を遥かに超えています。 それにしても面白い!笑える箇所もたくさん、謎もたくさん、そしてちょっぴり感動も。ムツカシイことを考えなくとも、単純に楽しめます。ファンの多い作品というのも納得です。
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