自動車社会学のすすめ | ♪♪♪♪ |
自動車の話を軸に、島田荘司の都市論や高級論、日本論などをまとめた書物。
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タイトルは『自動車社会学のすすめ』ですが、これを自動車の本と考えるのは必ずしも正しくはないでしょう。島田荘司が自動車マニアというのは有名な話です。だからこの本は、自動車マニアでない人には意味不明なことで埋め尽くされているに違いない、とこの本を敬遠していたあなた、全くそんな事はありません。基本的な自動車の知識があれば充分、もしその筋の知識が不足していても、問題なく読めますよ。そう、この本は「自動車」が全編を貫く軸となっているものの、その実、自動車を通して見た島田荘司的日本論の本なのです。 自動車は二十世紀の人類が生み落とした重要な工業製品の一つです。それは瞬く間に世界中へ拡がり、現在は地球を覆いつくさんばかりに普及しました。自動車は人類の社会・経済に大きな影響を及ぼし、土に喰い込む植物の根のように生活へ入り込んでいます。それならその自動車を手がかりにして各国の、ことに過去自動車という発想を持たなかったにも関わらず、自動車を利用して急速に富を握る事になった日本人の特質や問題点を論じることができるのではないか、そういうコンセプトで書かれたのがこの本です。 以上のような視点に立って都市論や高級論、日本人論、現代日本の交通問題などについて島田氏がいろいろ述べているわけですが、その切り口が非常に面白いです。島田ミステリの端々に現われていたメッセージはこういうことか、ということもよく分かります。時に強引と感じられる部分も見られますが、筋は通っていて、強引でも実に説得力がある。ぐいぐいと文章に引き込まれ、いつの間にか読み終ってしまう本です。 この本の初版は1991年。現在自動車業界は激変している最中です。世界の自動車メーカーは統合を繰り返しており、最終的には世界のメーカーは幾つかの巨大なグループとしてまとまることでしょう。1991年と比べて余りに自動車業界が変わってしまったため、細かい点を見れば、この本の内容で少々古くなった部分があるのは否めません。それでも、この本の価値は当面変わらないでしょう。メーカーや車種が少々変化したからといって変わりはしないテーマを扱っているからです。『ポルシェ911の誘惑』は、より自動車寄りの内容であるがゆえ、古さが目立つのですが。 ところでこの本、ところどころ島荘流のユーモアが顔を覗かせます。それがまた結構笑えたりするので、おカタいことは抜きにして、島田荘司がつれづれなるままに書き連ねたユーモア随筆集なんてのも読みたい気もします。しかし、この本を読む限り、どんな些細なことも島田荘司にかかれば、深い事実を示唆する鍵となってしまうようです。そう、島田荘司はミステリでもそれ以外の本でも何かと戦っている。「戦う島荘」が、そういう文章を書くことは必然的に少なくなってしまうのかも知れませんね。
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