高山殺人行1/2の女 | ♪♪# |
自動車で観光地を飛び回るという主旨のトラベル・ミステリー。「ドライブ・ミステリー」と銘打たれている。 仕事中の斉藤マリのもとへ、不倫相手の河北留次から「妻を殺してしまった」という電話がかかった。河北のアリバイを作るため、マリは赤いMGを駆って高山へと向かう・・・ |
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ちょっと不満、というのが読後の印象。時間と邪魔者の二者に追いかけられるというスリリングな展開や、トリックなどはまあ良いのですが・・・ この作品には、島田荘司らしさといったものが欠けているのです。不倫相手の不慮の殺人、それを助けるためにアリバイを作る主人公・・・どこかしっくりこない。事件の素材からして生臭い。例えば吉敷シリーズの『出雲伝説7/8の殺人』などは、恋愛トラブルを中心に据えたストーリー運びだったのですが、『高山殺人行1/2の女』とはちょっと違います。『出雲伝説7/8の殺人』には島田荘司のミステリらしいケレン味や気持ち良さが溢れているのに、この作品にはそれがありません(『出雲伝説7/8の殺人』には、吉敷竹史という「強み」があるのは確かですが)。小道具に自動車を使用しているという点がその「らしさ」になるかな、とも思われたのですが、どこか消化不良のままでした。ファンに自動車好きが多いとは思えないミステリにMGを登場させたのは大決断でしたが・・・これでは、ストーリーの牽引役をあえて自動車にする必要がないと思えるのです。電車だって構わない。いや、電車の方がひょっとして面白かったかも・・・ さらにラストがあまりと言えばあまりです。これは皆さんが読んで判断して欲しいのですが・・・あんまりだぁ。 これらの難点を一言でまとめると、やはりどうも「らしく」ないということ。作品のテンションも上がり切っていない。読者はいつもの攻撃的なまでに野心に満ちた作品を期待しているのに、肩すかしを喰わされた、という感じです。いい意味で「らしく」ないというなら大歓迎なのですが。 いつになく辛口解説でしたが、つまらなすぎて読み進めない、ということは決してない作品ではあります。サクサク読めてドキドキワクワクはできる。けれど、それだけ。読後に思い返せば上記のようなアラが目立つ、ということです。面白ければいいじゃないかという意見もあるでしょう。私も「エンタテインメント」しているところが素晴らしい、なんて書くことがよくあります。しかし、この作品は「エンタテインメント」と言い切るには少々生臭い。深さもあまり無い。島田ファンには、満足できない作品ではないでしょうか。
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