都市のトパーズ | ♪♪♪♪ |
全編を都市論が貫く作品。いわゆるミステリとは一線を画する。函入改訂愛蔵版(原書房)には書き下ろしエッセーを収録。
東京という都市で毎日「消耗」してゆく「私」。ある日私は、虎の子「トパーズ」と出会う。 |
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この作品以外でも度々表明されていた(またはこの作品以後でも表明されてゆく)、島田荘司の日本人論、都市論、日本論、江戸論、などなどの集大成とも言える作品。読んでいて感じるのは、文章が実にストレートでかつ「厳しい」ということ。日本という国に対して作者が抱く危惧がそうさせたのでしょう。鋭かった時代の御手洗や石岡君を数倍するような言葉が連射されます。ところどころに島田荘司がミステリで培ったテクニックが挿入されているようですが、この作品はミステリからは程遠く、『トパーズ』は止むに止まれず書いた日本人に対する警告であると考えられます。 思えば島田荘司という小説家が本来書く小説はこういうものなのかも知れません。ミステリの大家ではあっても、本来の氏は、多数に対する警告者(それは少数を代弁することでもある)であるような気が私にはします。日本人に対する警告を「私」にさせたのは、そういうことなのではないか、と。 中で論じられていることに対してどうこう言う力は私には不足ですが、魅力的で独特であるということは確かです。それらが正しいのか正しくないのかは全く別の問題としても、この島田荘司と同い年の「私」が語る厳しい言葉、言い切りの形で終止し、リアルに迫ってくるその言葉達は、読者の中でよく響きます。 また、この作品はそういう都市論だけが論じられた作品というわけではありません。それと並行して描かれた主人公の心の風景にもきっちり注目する必要があります。都市で疲れ切った「私」がトパーズに魅かれてゆく過程が本当にいい。トパーズは「シンボル」なのです。 それにしてもあらすじを書くのが凄く難しいですな(^^;)。
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