猿島、密室、毒島刑事!
嘘でもいいから殺人事件 ♪♪♪♪
 島田荘司初のユーモア・ミステリー。

 1980年7月。軽石ディレクター率いるTPSテレビ「ハチスペ」取材班は、奇妙な怪談が残る「猿島」での取材中、殺人事件に巻き込まれる。折しも島には台風が直撃しており、取材班は島に足止めをくっている最中だった・・・

 御手洗ものにその片鱗をのぞかせるように、島田荘司という作家がユーモア小説を書く力を充分持っていることは明白です。その島田荘司がセンスを十二分に発揮した一作が、この『嘘でもいいから殺人事件』。笑いがクド過ぎると敬遠する向きもあるかと思われますが、そこは趣味の問題。ユーモアとして質は悪くないと言えるでしょう。ミステリとしての出来もまぁまぁですが、不満が残るとすれば、前述のような濃厚ぎみのユーモア描写に邪魔されて、事件自体の印象が散漫になっている点。ああ、三太郎は近視で遠視で乱視なのだなとか、毒島刑事はスゲェスーツを来ているのだなとか、タックは着ぐるみで大変だったなとかいうことは非常に印象に残りますが、肝心の殺人事件がどうもぼやけているという・・・そういうことです。
 「ある騎士の物語」にいたく共感していた私の友人は、毒島刑事にもかなり同情していました。・・・いったい何があった(笑)。