幽体離脱殺人事件 | ♪♪♪# |
三重県二見浦。夫婦岩と呼ばれる二つの岩に渡された注連縄にぶら下がった形で、中年の男の他殺体が発見された。死んだ男の持っていた名刺には、事件の数日前、居酒屋で吉敷竹史が出会った男の名が記されていた。 |
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う〜む・・・と唸ってしまう作品。と、言っても出来が悪いとか面白くないとかいうわけではなく、主題について非常に考えさせられてしまうからです。文字どおり島田社会派というところですね。 で、その主題はというと「女性」です。主に社会的側面から、女性心理や女性を取り巻く環境について描くわけです。『暗闇坂の人喰いの木』において御手洗潔が「生き馬の目を抜く」と言った女の世界。女の世界とは、具体的にはどう厳しいのか。それを細かく描いたのが、『幽体離脱殺人事件』と言ってもよいでしょう。読んでいると、なかなか暗い気持ちになってくるかも知れない・・・ 「威張り病」をはじめとする世の日本人男性の悲しむべき性癖を、島田荘司は我々の前に度々提出してきました。そしてこの作品ではいよいよ女性達の問題点を具体的に提出してきた・・・『幽体離脱殺人事件』はそういう側面を持つ作品ではないでしょうか。 ミステリとしても悪くない出来です。目玉が飛び出るようなトリックは入っていませんが、順番に作品を読んでこの作品に到達するような熱心な島田ファンだったら、もうちょっとやそっとのことで驚かないのは仕方のないことでしょう。しかし、意外性に富んだストーリーは読んでいて飽きません。また、吉敷シリーズの中でも少々異色。と、いうのは吉敷の出番はかなり少なく、ちょこっと出てきて事件を解決して終わりという感じだからです。しかし、吉敷の出番が少ないことにより作品の大部分を占める、主人公の女性の語りは雰囲気たっぷり。ストーリー運びが強引な面もありますが、結構引き込まれてしまいます。サイコホラーっぽいラストもちょっと怖い。
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