バグス・グルーブ
BAGS' GROOVE
マイルス・デイビス
MILES DAVIS
登場作品無し
 ここでご紹介するのは、あの帝王マイルスの1954年の作品「バグス・グルーヴ」です。1954年と言えば1940年代のビ・バップ(コードに基づくアドリブを用いてホットに演奏する手法・・・らしい)時代を経て、ハード・バップ(ビ・バップよりも更に理知的かつホットな演奏を旨とする手法・・・らしい)にジャズ界が傾いていた時代の作品。ハード・バップのムーヴメントを創出した立役者の一人は紛れもなくマイルス・デイビスなのですが、そのマイルス自らがリーダーを執るハード・バップ作品が「バグス・グルーヴ」というわけです。
 さて、歴史的名盤との誉れも高いこの「バグス・グルーヴ」。実は島田作品には登場してきません。では、なぜここでこの作品を取り上げるのか?それはもちろん、この作品の3トラック目(CD版)に、かの「エアジン」が収録されているからです。さらにこのバグス・グルーヴ版「エアジン」にはソニー・ロリンズが参加しているのですから取り上げないわけにはいかない、ってものでございます。
 ソニー・ロリンズとはビバップのころ(1940年代頃)からサックスを吹き続けているジャズメン。彼の「サキソフォン・コロッサス」という盤などは、屈指の名盤であり、ジャズファンなら避けて通れない作品です。ちなみに彼はまだまだ現役。ジャズ界現役最後の巨人であり、「リビング・デッド」・・・違った!「リビング・レジェンド(生ける伝説)」としてその名は未だに鳴り響いています。で、それがどうしたってもんですが、実はこのロリンズ、「エアジン」の作曲者なんですね〜。驚きましたか?驚かないか。
 かの帝王マイルスがリーダーを執り、作曲者自らが参加して演奏される「エアジン」を収録した「バグス・グルーヴ」。どうですか、島荘ファンなら抑えておきたいと思いませんか、奥さん(ニヤリ)!
 島田作品に顔を出す「エアジン」はウエス・モンゴメリーの演奏によるものであります。ウエスの枯れた、小気味いいスゥイングは楽しいのですが、こちら、マイルス&ロリンズの「エアジン」もとびきり楽しい!繰り出される音の洪水、ホットな金管楽器の響き!ウエスを聞き慣れた耳には、「これがあの『エアジン』なの!?」と言ってしまいたくなるような演奏です。仮に、「ジャズって結局何なのよ?」と思っている人がいれば・・・ウエスとマイルス双方の「エアジン」を聞き比べてもらうとよいかも知れません。「ああ、ちょっと分かった気がする!」と思えたらしめたもの。アレンジ&アドリブ。ジャズの大きな楽しみのひとつです。
 さて、「バグス・グルーヴ」に関してもう一言。タイトル曲「バグス・グルーヴ」について。その出来は素晴らしく、正にグルーヴといったところなのですが、この曲にマイルスとモンクの高名な「喧嘩セッション」が納められているのが聴き逃せないのです。喧嘩セッションとは、マイルス(トランペット)が先輩セロニアス・モンク(ピアノ。御手洗シリーズ「疾走する死者」に名前が登場します)に対して「オレの後ろでピアノを弾くな!」と言ったためモンクが怒り、マイルスが吹いている間はモンクは一切ピアノを弾かず、職場放棄してしまったというエピソード。実際にこの曲を聞いてみると、確かにマイルスの出番にはモンクは引っ込み、モンクの出番にはマイルスは引っ込んでいるのです。しかし、二人は実際に喧嘩したわけではなく、マイルスとモンクが同時に演奏しないのは純粋に音楽的な問題であった、とマイルスをはじめ、多くの人が後に証言しています。つまり、マイルスとモンクの演奏が合わないとマイルスが判断したため、オレの後ろで弾くのを止めてくれとマイルスがモンクに要請しただけの話だったそう。「喧嘩セッション」は周囲の人間が面白半分に広めたフィクションだったようです。こんなエピソードと共に名盤を楽しめるのも、ジャズの面白いところ。