鹿児島刑事吉敷!
灰の迷宮 ♪♪♪♪
 吉敷の明らかな変容が見られる。留井刑事初登場。いい味出してる。

 新宿駅でバスに放火され、逃げようとした男がタクシーにはねられ死亡した。男は息子の大学受験の付き添いで鹿児島から上京していたのだが、その日は受験当日で、問題のバスに乗るはずはなかった。吉敷は捜査を進めるうちに、似たようなバス放火事件が過去にも起きていたことをつきとめる。

 島田作品の特徴の一つである、「事件に絡む偶然を力でねじ伏せる」という手法が顔を覗かせます。また、作品の芯となる事件や、それに絡んで連鎖的に発生してゆくトラブルというのもなんだかありそうな、なさそうな微妙な感じです。器が本格というより社会派寄りなのでそのギャップは作品の致命的なキズとなることも有り得る訳ですが、島荘はそこも力でねじ伏せてしまっています。このあたりの島田荘司の筆力は特筆すべきものがあるでしょう。いびつさも島荘作品の味のひとつなのです。問題点の一つかも知れませんが・・・
 この作品のキーと言えば茂野恵美でしょう。ラストは余りにセンチメンタルな感じなのですが、やはりじんと来てしまうものがあります。ここも力技なのですね。『確率2/2の死』などではある意味ドライな終わり方だったのですけど、この作品のラストでは吉敷がどこか変わったというか、ただ事件を解決する刑事ではなくなる予兆のようなものが表れています。この、これといって激賞も酷評もされていない作品に感じること、書きたいことが多いのは、そういう理由からなのかも知れません。『灰の迷宮』には本来「♪♪♪#」を付けようかな、と思っていたのですが、茂野恵美のおかげで「♪♪♪♪」を付けてしまいました(^^;)。