奇想、天を動かす | ♪♪♪♪ |
社会派と本格の融合に成功したと激賞されている、島田社会派の金字塔的作品。 1989年4月。浅草で老人が、消費税12円の請求に腹を経て、店主の女を殺害した。捜査一課の吉敷竹史はこの殺人事件に違和感を感じ、単独捜査を開始する。そしてそれは吉敷が、30年前に一人の男の奇想が天を震わせた瞬間へと近づく、長い長い旅の始まりだった。 |
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島田荘司のターニングポイントと言ってよかろうと思われる作品です。小説中、手記という形で挿入される幻想的な謎。この手法はこの作品以後、島田作品における最重要の構成手段となってゆきます。それはすなわち、小説内小説が謎を解く手がかりになっているという構成(二階堂黎人氏が指摘しています)。『暗闇坂の人喰いの木』でもこの手法は継承され、『水晶のピラミッド』ではさらにその分量を増し、『飛鳥のガラスの靴』でも、『眩暈』『アトポス』でも『龍臥亭事件』でも使用され、『涙 流れるままに』ではこの手法がさらに洗練され使用されています。 以上の手法は、「本格」的なミステリを構成するために使用されているようですが、この作品はこれに加え、吉敷ものならではの社会派的な要素を含んでいます。いや、むしろ社会派的要素が先にあり、そこに本格的な味付けを施したと言う方がこの作品にはよく合っているかもしれません。それほど『奇想、天を動かす』の語る闇は重い。詳しくは触れませんが、実に重いです。これまで注目されていたとは決して言えない事実が語られたこの作品の発するメッセージは、多数に対するものとして極めて重要な意味を持ちます。 この作品の冒頭においては、未だ吉敷は警察という権力の内部でもがいているような気がします。しかし結末において吉敷は、はっきり吉敷となりました。この作品は、島田荘司のターニングポイントであると同時に、吉敷竹史のターニングポイントでもあります。ここで吉敷の背負う大きな枷が、吉敷の進む道を決定づけたのです。 作中、中村刑事と牛越刑事が登場。いつも吉敷をサポートしてくれる彼らの存在は頼もしい限り。 ところで、『奇想、天を動かす』というタイトル、抜群にセンスがいいと思いませんか?島田作品のタイトル大賞はどの作品か、というのを考えるとすれば、私は間違いなくこの作品を選びたいです。
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