それでも真実を追う刑事、吉敷!
ら抜き言葉殺人事件 ♪♪♪#
   ピアノと日本語の教室を開いている女性、笹森恭子が自宅のベランダで首を吊って自殺した。捜査一課の吉敷竹史は、彼女が生前「ら抜き言葉」をめぐって作家・因幡沼耕作と激しいやり取りをしていたことを知ったが、その因幡沼も刺殺体となって発見される。
 なかなか妙なタイトルの作品。そのせいでこの作品をユーモア・ミステリーと誤解している人が時々ありますが、実は実はガチガチの社会派作品です。
 普段から島田作品を愛好している人はもちろん、そうでなくともこの作品に含まれるメッセージ性、社会性というのはすぐに理解できると思われ、島田荘司のいう社会派の黄金率に沿った出来となっています。また、この作品において面白いのは、タイトルになっている「ら抜き言葉」が、実は事件の発端に過ぎず、ここから絡み合った糸がほぐれてゆくという展開です。通読していただければ分かるのですが、島田荘司がこの作品で表現したかったのはら抜き言葉がどうこうという日本語作法の問題ではなく(もちろんそれもあったでしょうが)、何が悪となり善となるのか想像がつかない、日本社会の歪みであると考えられます。
 しかし(テーマの鋭さや表現は素晴しいとしても)、この作品は読み終わっても、どこか首を傾げてしまうような空気を持っているという点に、私は苦言を呈したいと思います。本格と社会派の融合がうまくいっていないのか、どこかリアルと非リアルのバランスを崩している気がするのです。うまい作品なら、いくら大袈裟なエピソードや描写でも違和感を抱くことが少ないのですが・・・・・・微妙なラインでの問題ですが、これは創り方ひとつで解決できた問題でしょうから、少し残念です。
 とは言え、少しフォローすると、ラストがいいんです、この作品。吉敷ものの中では屈指のラストシーンかも知れない。このシーンは、私は大好きです。