何かが変化した刑事、吉敷!
Yの構図 ♪♪♪♪
 いじめを題材にした作品である。この作品のヒントとなったと思われるいじめ事件より、わずか10か月の後に刊行された。

 上野駅に前後して到着した二本の新幹線の中から、それぞれ服毒死体が発見された。捜査を進めるうちに吉敷は、その二人の男女が、いじめによる生徒の自殺事件が発生した中学の教師と、いじめを行ったとされる生徒の母親であることを知る。

 『奇想、天を動かす』などより注目度が一歩下がる作品ではありますが、私としてはなかなか気に入っています。結末まで読むと、いかにも現実離れした事件のようにも思えますが、後の『ら抜き言葉殺人事件』で感じた、バランスが崩れたような違和感は余り感じられません。派手ではないものの、どこか幻想的とも言える雰囲気がそう感じさせるのではと思います。特にクライマックスシーンがなかなか怖い。このクライマックスシーンが作品全体をキュッと締めつつ、方向付けている気がしますね。
 タイトルに「Y」が用いられているのもニクい。名作、クイーンの『Yの悲劇』を彷彿とさせますが、結末まで読むと『Yの構図』と『Yの悲劇』の意外な共通点に納得。この重ね合わせ方は、正に感動でした。そしてこの共通点は、一刑事としての吉敷の変化をも示すことになります。それまでの作品とは明らかに違う吉敷が現われてくるのです。
 作中に登場する菊池刑事が非常にいいです。なにやら吉敷ものは一作ごとにこのタイプの男性が登場している気がしますが・・・それでも(私がうまくノセラレテしまっているのか)頑張れよー、と言ってみたくなります。また、吉敷自身も子供相手の捜査が多いからか横に菊池がいたからか、いつもよりちょっとくだけた(?)一面を見せてくれます。モテモテぶりも発揮していますよ。