PS2が売れている。私の好きなセガ陣営のドリームキャストは低調だ。この構図がなぜ生まれたのか。今回はそれを考察してみたい。
  まず、DCの展開から分析する。
  今後のゲーム機市場において鍵を握るのは言うまでもなくネットワークの活用である。DCは早くからネットワークに眼を付け、それに対応したゲームを発売してきた。
  それでも低調なのである。
  つまりネットワークを利用したゲームに対するセガの考え方がまずかったということである。どこがまずかったのか。
  それは、従来の回線を利用するという思考である。一度でもネットワークゲームに手を出した人なら分かると思うが、現在のネットインフラではゲームを動作させるのに十分ではないのだ。重すぎる、線が細過ぎるのである。ことアクションやレースゲームに関してはそうだ。
  私が常日頃から考えていることだが、現在のネットワークは非実用的過ぎる。テキストベースのパソコンによるネットワーク利用についてもそうだ。例えば一つのホームページを開くのに最低でも数秒、酷いときは1分以上も待たされる。
  現在はそれが当然だから、重いなあと言いながら、誰も自然にこの状況に従っている。しかしこの状態は不便過ぎるのだ。本当に実用的と言うなら、一つのホームページを開く時間は少なくとも1秒以下にするべきだ。ゲームならなおさら高速が要求される。
  セガは、この不便なネットインフラを、そのまま利用しようとした。いや、した。
  ネットインフラに関する問題は他にもある。料金の問題だ。現在電話回線の使用料はNTTがプライスリーダーであるが、彼らの設定する料金は暴利と言ってよいほど高い。24時間繋ぎっぱなしなどもってのほかだ。24時間繋ぎっぱなしなんて、と笑う方もおられるかも知れない。しかしネットワークの威力を本当に発揮させるなら、常時接続は当然必要になってくる。
  話が逸れたが、ネットワーク展開において、セガの見通しは甘かったと言わざるを得ない。
  さらに本体の販売方法についても問題がある。
  問題がある、というと語弊があるかもしれない。むしろセガの販売戦略に問題はなかった。しかし、その点こそが正に問題なのだ。
  DCの販売において、セガは面白いゲームソフト(ネットワークの利用も含まれる)や、ビジュアルメモリなどでユーザーの関心を引く「内容重視」の従来的な手法をとった。問題はない。・・・と、思われた。PS2の出方がはっきりするまでは。
  ひるがえって、いよいよPS2について見てみよう。
  PS2の販売において、ネットワークはいかに扱われているか。・・・なんと、現時点で対応していない。将来的な対応のアナウンスにとどまっているのだ。
  これはソニーが現在の回線の細さを使えないと判断したからに他ならない。その証拠に、その、「将来的な対応」はケーブルテレビ網など視野に入れた、高速・大容量回線の使用になると思われている。
  ここで、ちょっと待て、となる。確かにケーブルテレビ網や、その他の回線を利用すると、ネットワークゲームは「使える」ものになるかもしれない。だが、その整備を待っていると、時間がいくらあっても足りないのではないだろうか?
  そこで、ソニーの余りにも巨大な視点が見えてくる。つまり、「PS2を普及させることによって、高速・大容量のネットワーク回線を整備させる」という視点だ。回線にゲーム機を対応させるのではない、ゲーム機が回線を普及させるのだ!
  だが、果たしてそんなことが可能だろうか?たかがゲーム機に、国のインフラを動かすことが可能だろうか?そう、それを可能にさせる「宙返り」をソニーは見せた。
  DVDである。
  ソニーはPS2にDVDの再生装置を搭載させた。無理矢理と言ってよい。実際どれくらいのリスクなのかは分からないが、DVDの再生装置をPS2に搭載させることにより、そのコストは、間違いなく上昇したはずだ。ソフト単体の値も上がる。
  PS2がそこまでしてDVDを搭載した理由は、インフラの整備にあった。「PS2は、DVDが再生できて、しかもゲームまでできる!」と揶揄されたことがあるが、PS2の狙いは正にそれであった。DVDプレイヤーに興味はある。しかし少々高い。もう一つ購入に踏み切れない・・・そんな人は沢山いた。そんな人達に対し、「もう一つ」購入に踏み切らせることができるもの、「ゲーム」という付加価値を付けて売り出したハード、それがPS2の真の姿である。DCはコストとゲームにへの必要性を考慮してDVD再生装置の搭載を拒否した。ソニーとそもそもの視点が違う。
  これにより、ゲームをしたい人間の他、DVDを見たい人間までがPS2を欲しがるという結果が生まれた。最近のDVDソフトの売り上げはPS2発売前に比べて上昇している。私も欲しい。DVDが見たい。
  かつて、ゲーム機の発売時、ソフトを買わず、ハードだけ買っていく人間がどれだけいただろうか。ごく一部のマニア層だけがそれをやっていたに過ぎない。しかしPS2ではそんな光景が普通に見られた。これは異常なことなのだ。つまり、PS2はゲーム機であるが、半分オーディオ機器なのである。少なくとも現在のところは。
  DVDはオーディオ業界における10年に一度のヒット商品となることを約束されていた。いずれは日本中に普及し、一家に一台という状況が現出するのは間違いないと思われていた。しかし、その未来は少々軌道修正されてしまった。「一家に一台DVD」ではなく、「一家に一台PS2」へと。
  そしてPS2は普及するだろう。それに伴い、ネットインフラの状況も少なからず変貌してゆくだろう。その時、PS2のゲーム機としての実力が、いよいよ発揮される。(現在のPS2のラインナップは充実していないのだ。貧弱と言ってよい。その貧弱さを補ったのは、DVDと「PS1との互換性」だ。互換性。ゲーム機の常識を打ち破るこの発想)
  これらはゲーム屋には考えられない戦略だ。これこそ戦略だ。現在私はソニーを尊敬すらしている。決して愛することはないが。「面白いゲーム」「楽しさ」「性能」を売りにせず(アピールはしていたが)、この時期だからこそのDVDに眼をつけたその慧眼さ。今までPS陣営が築いたイメージ戦略も、流通改革も、価格競争も、ゲームそのものの質すら木っ端みじんにする力を利用したのだ。ゲーム機としての実力云々と前述したが、それどころではないかもしれない。生活自体が変わってしまう可能性がある。ことはインフラに関わる問題なのだから。ソニーの「PS2で世界が変わる」という言葉も、嘘ではないのだ。
  このままでは近い内にPS2の寡占状況が間違いなく現われる。私は寡占を歓迎しない。ゲームの内容が画一化されてゆく危険性がある。現在のPS2の商売が、はじめにゲームありき、ではないところも気に入らない。はじめにゲームありき、とはアナクロもいいところだが、私はこの考え方を忘れて欲しくない。ゲームはエキサイティングなものだ。DVDを視聴する合間に暇を潰したりするものではない。また、レンダリングとマッピングの高度さを競う道具でもない。
  PS2は、作り手側にとってカネのかかるハードであることも問題だ。ゲームの可能性を削ぐことになる。売れなければ小さな会社の社員全員が首を吊らなければならない程の損害が出るハードでは、小さな会社は存在を許されない。
  それなら、他ハードがPS2に食い込む芽はあるのか?
  ほとんどない。
  後発機がDVDを搭載しても、そのころにはPS2が普及し切っているだろう。唯一この筋で可能性があるのはDVDレコーダーを搭載するということだが、DVDレコーダーは現在20万円以上もする。値下げはもう少し待たなければならないだろう。そもそも、それにしたってPS2の二番煎じに過ぎないのだ。
  X-BOXというハードはどうだろうか?現在のところ、性能の素晴らしさしか聞こえてこない。これではPS2には勝てない。他の売りがあればよいのだが。
  PS2の弱点が、たった一つある。それは紛れもなく「ゲーム」ということである。PS2はゲーム機だ。現在は半分AV機器だが、将来は間違いなくゲーム機になる。そのゲーム機において、最も重要になる一点、ソフト。ソフトにPS2の弱点がある。
  セガや任天堂のハードと、PS2におけるソフトの違いは何だろう?決まっている。PS2には日本最高のソフトハウスとしてのセガと任天堂が存在していないということである。PS2の弱点はこれだけだ。しかし、ここに付け込むスキがあるのだ。
  私は近頃夢想する。セガと任天堂が手を組まないかな、と。古くからのゲームファンなら、このことを聞いただけで冷たい骸になってしまうかもしれない。ラヴクラフトもびっくりだ。しかし、ソフトハウスとしてのこの二社が手を組めば、PS陣営の目玉であるスクウェアとエニックスに十分負けない力が生まれる。何しろスクウェアとエニックスはRPGしか作れないのだ。セガと任天堂は何でも作れる。セガと任天堂が、これからも別々に活動を続けるのなら、両社とも未来は暗い。任天堂はゲームボーイとポケモンがあるからまだいいが、セガは正にお先真っ暗である。
  売り方や、考え方の面でソニーに勝てる会社はゲーム業界にはまずないだろう。それなら、昔からのゲーム屋は、面白いゲームを誇り高く作り続け、本当にゲームが好きな人々に提供していくしかない。任天堂とセガが組む。ネットインフラはPS2が整備したものを使う。もはや泥をかぶりたくないなどと言っている状況ではない。ソニーに食い込むには、それしかないのではあるまいか?セガと任天堂が大同団結したからといって、それが天下獲りに繋がるとは私は思わない。しかし、不毛なシェア争いは多少は緩和されるはずだ。セガ任天堂連合は、一般性はPS2に劣ることになるだろう。しかし、彼等がゲーム屋としての役割を忘れず、ソニーと一線を画す商売をすれば、ゲームファン達はこの連合を熱く支持し続けるはずだ。それならば、この連合は、細く、長く、市場を泳いでゆけるだろう。


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