1.宴の支度

 いつもと同じであった。年末になると漢達は集まり、取り憑かれたように卓を囲む。1998年の末は翌年にやって来る筈の恐怖の大王に怯えながらうまい棒を喰らった。1999年の末は千年紀をまたいで犬猫の餌を喰らった。そして2000年の末・・・
 参加者は6人。主催者・ヘタレコンポタF、うまい神、うまい王、メンタイC、そして新規参加者にして王の友人、魔人Jと最後にこの私である。Jがなぜ魔人なのかは後で述べる。
 その日は皆で鍋を突つくという話になっていた。いわゆる闇鍋という奴である。ただ、一般的な闇鍋と漢達の闇鍋は少し違う。普通闇鍋といえば各自で食材を持ち寄り、部屋の電気を消してそれを中にぶち込むというものである。しかし漢の闇鍋は電気を消さない。各自で「ネタとして面白い」ものを持ち寄り、それらを駆使して世界でたった一つの鍋を創り上げるというさわやかな鍋なのだ。しかし世の中というのはそれほど簡単にさわやかを許してくれるほど優しくない。用意したものをいきなり鍋の中にぶち込むと、序盤から何か良く分からないような物体が鍋の中で煮えくり返っていることになってしまう。喰えない。これでは皆腹が減って仕方がない。ネタとして美しくもない。だから、始めてすぐは「喰える」鍋を作り、終盤にかけてよく考えながら真の芸術品を創るのが、漢の闇鍋である。
 私が選んだ食材は豚肉の細切れ、かれいの切り身、えのきだけ、ギョウザの皮、「ジャン」という焼き肉のタレ、粉わさび、アメリカ産の不味いカップヌードルとビスケット様の菓子である。喰えるものとヤバいものとのバランスが見事にとれた食材選別と言えよう。これでは漢達にとっては優しすぎる、と言われる向きもあろう。しかしその辺りは心配ない。コンポタFが素晴しい食材をたんまり用意してくれているのに決まっていたのだから。
 とにかく2000年12月31日、私はこれらの食材をぶら下げて会場家の敷居をまたいだ。もちろんその時の私は、闇鍋だけで夜を明かすとは微塵も思っていなかった。Fのことだ、もっと妙な企画を用意しているに決まっているのだ。
 こうして、宴の支度は始まった。

2.魔女の釜

 君は、エスパー魔美の料理を喰ったことがあるか。
 20世紀の終り、我々はそれを喰った。
 闇鍋が始まっていた。この時、参加者は7人になっていた。F、王、神の古い友人であるKがやって来ていたのだ。
 湯を張った土鍋に昆布が沈んでいた。よく出しがとれたところで、食材が投入された。前述のとおり、最初は喰えるものを作るのが漢の約束なので、普通の鍋を・・・
 色が変だ。汁の色が紫だ。そう、ムラサキキャベツが投入されたのだ。もちろん味的には問題無いが、色が最悪だ。澄んだ紫色の鍋。味を変えずにこれだけ嫌な鍋を作るとは、恐るべし漢達。その後投入された豚や茸類は全て紫色に染まっていくことになる。
 しかしそんなことは序の口だったと、私はすぐに思い知らされる。その後投入されていく食材は、全て喰えるものだったにも関わらず、どうにもやり切れない視角的効果を生み出していったからだ。
 序盤に投入された食材を、記憶にある限り列挙してみよう。ムラサキキャベツ、白菜、豚肉、丸くて小さいパスタ、赤い寒天、マイタケ、シメジ、鶏もも肉、片栗粉、タピオカ、エリンギ。これらである。他にもいろいろ入っていたように思うが、取るに足らない。以上に挙げた食材は、鍋に入れても何もおかしなことにはならない。ムラサキキャベツは汁の色が紫になるだけであるし、パスタは普通鍋には入れないというだけで入っていても問題無く喰える。赤い寒天を入れた所で紫の汁が赤紫色に変わり、とろ味がつくだけ。片栗粉も鍋にとろ味がつくだけ。タピオカというのはキャッサバという芋類のデンプン質から毒素を抜いて、直径1ミリメートル程度の球状に固めたものであり、味もほとんど無いらしいから、入っていても鍋につぶつぶが混じっているな、という程の感想しか持てない。エリンギはただのでかい茸だ。
 しかし、これこそ心の小宇宙(コスモ)の輝きか、これらの食材が奇蹟的なまでに危ういバランスを保って、「喰えるのに喰いたくない鍋」を演出するのである。
 まず、暫く煮ると鍋にとろ味がついてくる。寒天と片栗粉の影響であろう。更に、野菜類が煮詰まってくるので、汁と相まってどろどろになってくる。そこに謎の茸類が浮いて入る(本当はマイタケ)。うまい王が何を思ったのか丸のままで鶏もも肉を投入する。これら食材の端々には、小さくて丸いもの、タピオカがつぶつぶとくっついている。
 想像していただきたい!赤紫色でとろとろの液体がぐつぐつと煮え立っている(本当にぐつぐつという音がするのだ。泡は「ぽっこん」という擬音が最高に似合う感じで弾けて消える)。中央には正体不明のでっかい肉が高らかに浮かぶ。そこにやかましく絡み付いているのは細かい茸や葉っぱ類。肉をつまみ上げると、タピオカがまぶされている。このタピオカが最悪だ。つぶつぶつぶつぶと鍋じゅうに拡散し、混沌を演出している。肉にごそっとまとわりついたタピオカはまるで蛙の卵。うまい王など思わず「うおっ!肉が卵産んだ!」と叫んだくらいである。そして更に、この「産卵する肉」の下にはグロテスクとすら言える巨大茸(エリンギ)が鎮座ましましているのだ!
 これは魔女の釜である。魔女の釜という以外に形容のしようが無い。鶏もも肉を喰う時、魔女の釜に入っている肉っていえばあれだよなと考えかけたが、最後まで思い出すのは止した。それでも味は結構いけるのが切ない。
 この後も妙なものが入り続けた。ギョウザの皮にキウイや「きな粉ホイップ」という生クリームにきな粉がたっぷり混ざったようなもの、クリームチーズ、練乳などをそれぞれ包んだものなども投入されたが、ギョウザの皮に包むという高等テクのおかげで鍋自体の味はそう変わらなかった。ちなみに「きな粉ホイップ」のギョウザの皮包みは結構うまい。これはメンタイCも同意見だった。
 この頃、中途だったがKが所要のため帰宅し、メンバーは都合6人となっていた。私は表に出て煙草を吸うことにした。割と喰えたよななどとおめでたいことを考えていたが、思えばこれがいけなかった。
 部屋に戻ると、大変なことになっていた。鍋の中味が灰色になっているのだ。確かほんの五分前まで赤紫色だった筈なのに!いったいこいつら、私のいない間に何をしたのだ。これじゃマジ魔女の釜じゃないか。腋の下が汗ばむ。とうとう本気を出したのか。本気か。漢の鍋か。
 ちょっと喰ってみた。・・・すこーし危険な風味がした。しかしまだ喰える。私の持って来たアメリカのビスケットも入っていた。
 更に暴走は続く。アメリカ産のカップヌードルを湯を入れてから投入した。灰色に煮えた鍋の中に、黄色が拡がってゆく。ネットは広大だ。さらにその後に何が入ったのかはもう良く覚えていない。確か冷やしあめとかジャイアントカプリコとか粉わさびとか焼き肉のタレ(ジャン)とかそういうものが入っていたように思う。とにかく気が付いたら、鍋の中は真黄色になっていた。中味ももう良く分からない。多分元は白菜だったのだろう葉っぱ(元カップヌードルの麺が絡んでいる)、元キウイが鍋じゅうで踊り狂い、真ん中にはドリアンが丸で浮かんでいた。投入された食材は全て魔女のアイテムへとスキルアップを遂げていた。これでこの短時間に鍋の色は都合4回変色したことになる。透明から紫、赤紫、灰色から黄色へと。この20世紀末に暗黒の中世が復活したと言ってよかろう。
 そこで私は気が付いた−懐かしい香りがする。
 あれは何年か前、同じようなメンバーで闇鍋をやった時だ。その時鍋にはモスバーガーやココナッツミルク、いちごクリームパン、バナナパンやサルサソース、ナマコなどが入っていた。この時、鍋からは個性的な香りが発されていたのだ。そう、それは−
 プリント基板を半田ゴテで焼いたとき。あの香りだ。数年前の時は強烈な基板臭がしていたが、今回もほのかに基板の香りがした。味の方はその時も今回もほとんど同じ。形容し難く不味い。
 そして電光が突き抜けるように私は悟った。不味い料理というものは、行くところまで行くと皆同じなのだ!と、いうことは。私の思考は疾走する。
 と、いうことは、エスパー魔美の作ったシチューから発される「毒ガス」級の臭いとは、プリント基板の焼けるような臭いだったのだ。章の冒頭で私が「エスパー魔美の料理を喰ったことがあるか」と私が書いた理由はここにある。漫画や映画やアニメのヒロインが作る「不味い料理」を我々はこの時、確かに喰った。それらはそれぞれ異なるようで、実は同じものだったのだ。このことが、私が今回得た教訓である。2000年12月31日午後10時頃、6人の高畑さんの冒険は終った。

3.カナリヤ達


第3章には、一部18歳未満の方に閲覧していただくのに適さない表現が含まれています。18歳未満の方はこちらへどうぞ。

 ゆるやかに、ひそやかに、天へと昇ってゆくカナリヤ達の詩。これから、哀しきカナリヤ達の物語をしよう。
 鍋も終り、みんな一息ついていた。うまい神とコンポタFは台所にこもり、どうやら後片付けをしているようであった。そうしているうちに、20世紀が、終った。人類の躍進の世紀。そして、哀しき戦争の世紀。あらゆるものを産み出し、また破壊し尽くした100年が終ったのだ。
 その後買い出しに向かい、軽く夜食などを買った。うまい神やコンポタFは「チョコエッグ」という人気の菓子を購入し、会場宅で開封して楽しんだりもした。玉子型のチョコの中におまけが入っているという食玩である。おまけの動物フィギュアは出来が良く、私も一個か二個買ってもいいなと思った。しかし虫が嫌いな私は、カブトエビだけは当てたくないとも思った。あのエビはリアル過ぎる。
 こんな平和な買い出しの最中に、うまい神は述懐した。「俺の20世紀は、鍋にこびりついた良く分からないものをこすりながら終った」と。
 そして神はこうも述懐していた。「コンポタFの20世紀は、粟と稗を洗いながら終った」と。
 企画その二の正体が、この述懐の中に含まれている。その正体とは・・・「21世紀の始まりにあたって、あえて江戸時代の貧農の気分を味わい旧世紀を総括しよう!」ということだ。粟と稗を炊いて喰おうというのである。
 しかしFの野望はこれで終らなかった。貧農気分で旧世紀を総括した後は、新世紀に向かう食事を、用意していたのだ!
 マッサージ用ゼリーというものをご存知だろうか。
 これを読んでいるのはきっと18歳以上の人だろうから、使ったことはなくても知らないことはなかろう。あれのことである。ローションともいう。あのマッサージ用ゼリーを使ってゼリー(食べるゼリー)を作ろう、というのが第三の企画であった。ちなみに「ペペ」というゼリーである。要するに、炊いた粟稗ガユにペペゼリーをデザートに付けて夜食会を行おう、というのである。最低だ。これで赤い寒天というこれといって個性の無い食材が用意されていた謎も解けた。鍋に使うのなら別に片栗粉とムラサキキャベツだけでも充分だったのだから。
 ペペ(マッサージ用ゼリー)で食用ゼリーなぞ作っても大丈夫か、という声は当然あった。しかしコンポタFに抜かりは無かった。ペペホームページで「食べても大丈夫」と確認してきたという(そもそもこの世にペペホームページがあるなんてことは私は知らなかったが)。コンポタFに言わせれば、そもそもペペは口に入るのが当然なのだから、食べて害のあるわけは無いそうなのである。詳しく説明はしないが、そういえばそうか。
 じゃ、ペペの味はどうか、というと、Fいわく無味なのだそうである。しかし臭いがする。薔薇のような臭いだ。これがゼリー作りにあたって吉と出るか凶と出るかが問題だった。
 このペペゼリーがなぜ新世紀なのか。コンポタFいわく、「高分子ポリマー」入りだからなんだそうである。高分子ポリマー。未来っぽい気はするが、それって一体なんなのか。試しに国語辞典をひいてみた。
 高分子化合物−−高分子の[分子の量が一万以上の]化合物。
 ポリマー−−辞書に載ってませんでした。
 ・・・今、このレポートを書いている私は述懐する・・・めっちゃ消化に悪そうやん。しかもポリマー辞書に載ってないやん・・・
 粟稗ガユの方はまだマシに思えた。何といってもほんの100年や150年前まで日本人が普通に喰っていたのだから、危ない訳がない。
 しかし、そこで気の緩みが生じたのか、Fはある失策を犯すことになる。
 Fの買って来た粟稗というのはいわゆる「鳥の餌」である。パッケージにはかわいいカナリヤの絵が書いてある(セキセイインコだったかもしれない)。しかしこんなもの、ミレニアム・ペットフードを乗り越えた漢達にとっては屁でもない。所詮粟と稗なのだ。−だが。
 店にはごく普通の人間用粟と稗も売っていたそうである。しかし、コンポタFはそれでは押しが弱いと判断したのだろう。敢えてFは「鳥用」を買って来たのだ。それが失策であった。
 その失策は粟と稗が炊き上がるころにF自身の口から明かされた。「原材料が問題だ」と。後から気付いたのか、どうもその鳥餌には人間の喰うものじゃないものが入っていたのである。
 その名もボレー粉。名前だけ聞くとカレー粉の親戚みたいにも思えるが、その実、ただの貝殻である。粉状の貝殻なのだ。小鳥の消化を促進するらしい。よく見たら、粟や稗に虹色をした小さいものが散っている。貝殻に光が反射しているのだ。
 炊き上がったカユを食すと、このボレー粉、とんでもない悪玉ということが判明した。どこを噛んでもじゃりじゃりいうのだ。歯が痛い。口が痛い。ビタワンを思い出す。部屋の中のテンションはもう最低だった。多分日本史上でもベスト100には入るくらいのロー・テンションだったろう。じゃりじゃり、じゃりじゃり。
 さらに鳥餌の他の原材料もよく考えるとヤバいことこの上なかった。ムキアワ、ムキヒエ、ムキキビが入っているのはまあいい。ボレー粉もまぁ仕方がない。しかしカナリヤシードって何だ。カナリヤの種?穀物か。我らはカナリヤ用の種を食べているのか。じゃりじゃり。
 クロレラも入っていた。クロレラが何で入っているのだ。あの丸っこい藻が。このカユの中にはクロレラの死骸がいっぱい浮いているのか。他にも菌系の原料は混ざっていた。その名もペカリス菌。私ははっきりいってこんな菌の名はこの日まで聞いたことも無かった。乳酸菌の一種らしい。鳥の餌には思いの外色々なものが入っているのだ。いつか食べる日のためによく覚えておくがいい。Fによると、高級な鳥餌にはいろいろな素材がサービスされているということだった。
 もう一つ、鶏卵という文字も原材料の中に見えた。へぇ、栄養満点だな、卵が入っているなんて、と一瞬心が和んだが、よく考えたら中味ではなく卵の殻が入っているに決まっているのだ。私のテンションは更に盛り下がった。もういいよ、いいじゃないか。ここに至って私は巷のカナリヤ達がどうしてあんな悲しげに鳴くのか分かった。「餌に余計なものが混ざり過ぎ」と嘆いているのだ。「ボクたち、粟と稗と黍があれば充分なの、うぐぅ」と訴えているのだ。この哀しい詩は、これからも天へと放射され続けることだろう。クロレラを入れたら、ボレー粉を入れたらきっと鳥は喜ぶ!と考える人間の傲慢が、愛という皮を被った傲慢が、彼らを苦しめ続けるのだ。
 ここで、主は言われた。「ペペ」と。
 そうだ、ペペを喰おう!もうボレー粉まみれの愛なんて要らない。ペペだ。愛はペペだ。みんなでカユを炊いている最中にコンポタFが、寒天とゼラチンとペペと砂糖を用いて必死に仕込んでいたペペゼリーを食べようじゃないか。もう完全に固まっている。
 Fは茶碗6つに入っていたペペゼリーを小皿にあけ始めた。・・・凄い。イチゴゼリーそのまんまだ。喰えそうだ。いや、喰える。そこにいた誰もがそう確信した。
 そして私はそのペペゼリーの香りを確かめようとゼリーに鼻を近づけた。薔薇の香り。・・・さっきの確信がもう揺れた。私は思った。固まってもマッサージ用ゼリーなんだ、と。
 しかし確信が揺らごうがマッサージだろうが喰わねばならぬ。それが漢の生きる道だ。ペペゼリーはスプーンでぺちぺち叩くと、私を励ますようにぷるぷると震えた。私は思う。君の母はゼラチンだが、父はペペなんだ。こんなに可愛いのに、こんなにぷるぷるしているのに。それなのに君は、ゼラチンとペペから生まれ、薔薇の香りを身にまとった忌み子なのだ。私は泣いた。
 スプーンを突き立てる。ゼリーがスプーンに噛みつくが如く粘り付く。切る。・・・切れない。豪く伸びる。ねばねばいつまでも伸びている。これが高分子ポリマーの力か。やっと切る。そして口へと運ぶ。
 葛みたい。それが第一に感じたことだった。本葛のようだ。喰える、喰えるぞ!ペペゼリー、君は喰える!君はきっとうまくやっていける!私は心から嬉しくそう思った。
 その時、ペペゼリーの裏の顔が、牙を剥く。
 薔薇の香りが、口の中で爆発した。
 私は悶絶した。ペペゼリーの怖さはワンテンポ遅れてやってくるのだった。これは喰えんな、と皆思ったとき、うまい王が凄いことを始めた。
 ペペゼリーに、練乳をぶっかけ始めたのだ!ペペゼリーに・・・練乳。深く考えたらいけない気がしたので、魔女の釜の時と同じく、考えるのは止した。
 果たしてうまいのか、うまくないのか?賛否両論の中、うまい王は練乳かけペペゼリーを喰った。
 「うまい!」
 そう言って王は倒れた。マジっすか!?ペペゼリー練乳かけですぜ、王!
 半信半疑のまま、隣に座っていたメンタイCがペペゼリー練乳がけを試す。
 「うまい!」
 同じようにCも倒れた。どうやら本当にうまいらしい。ここからは練乳の奪い合いになる。
 私もペペゼリー練乳がけを喰う。ああ、うまい。うまいぞ。君は練乳をかけるとうまくなるのか。
 ところがであった。しばらく喰うと、味は良いのだが、食感がどうにもたまらなくなってくる。食感ヤバイ。噛んでも噛んでもくちゃくちゃいって、非常に飲み込みにくいのだ。喉に引っかかるのである。よく考えたら、ペペとは然るべき物の然るべき様子に似せたもんであろうから、ごっくんしにくいのも当然のように思われた。またテンションが下がってきたので、私はそこで喰うのを止めた。
 ここでJのことを話そう。はじめに「魔人J」と書いたあのJである。Jはこの集まりで素晴しい働きを見せた。ペペゼリーを一個完食し、ボレー粉まみれの粟稗ガユを二杯喰ったのだ。その前にも魔女の釜に浮いていた丸のアボガドを丸ごと喰っていた。こいつは魔人だ。絶対ダークシュナイダーにも勝てる。そう確信した私は、Jを魔人と呼ぶことにしたのだ。魔人J、君の真似は絶対に出来ない。私の負けだ。
 こうして21世紀最初の夜、我々6人のカナリヤは、哀しい詩を天に放射しながら過ごしたのである。ボレー粉は餌に混ぜなくってもいいよう。ペペはごっくんしにくいよう。ちゅんちゅん・・・と。去年に続いて、孫には絶対に話せない過去を背負ってしまった、哀しいカナリヤ達、さらば。

4.宴の始末

 それからある者は眠り、ある者は喰い続けと思い思いに過ごし、翌日になった。翌日はギョー烈とかいうカードゲームをやったり、麻雀をしたりして平和に過ごしたが、午後6時頃、そろそろ解散かという時に至って、漢達は最後の花火を打ち上げることにした。昨夜早めに帰宅したKが再びやってきたので、ペペゼリーを喰ってもらおうというのである。ところがKも慣れたもの、少し喰うと笑って食べるのを止めてしまった。当然である。毒くらわば皿など普通はやらない。毒も途中で止めておくのが一番だ。
 ところが、そこでうまい王が持ち前のガッツを見せた。王は尻すぼみで物事を終えるのが大嫌いなのだ。なんと、「ペペゼリー一気喰い」を試みようというのである。
 練乳をかけ、王がペペゼリーに手をかける。そして一気に貪る!ずるっ、ずるっ。ホラーっぽい効果音を響かせ、王は喰い切った。偉すぎる。多分野口英世並に偉い。きっと君の死後、『うまい王』という講談社火の鳥文庫が出版されることだろう。
 その後、ヘタレのコンポタFも一気喰いに挑戦した。練乳をかけて喰ったものの、量が足りず、チューブから口の中へ直に練乳を流し込む姿が感動的だった。口の中に残ったゼリーをくっちゃくっちゃと咀嚼している姿も頼もしかった。その上さらに、私が喰い残した四分の三個分のペペゼリーをも流しこんだのである!この姿を見て、私はFをヘタレという冠詞を付けて呼ぶのをそろそろ止めようと決意した。これからFは「ペペコンポタF」と呼ぶことにする。ペペF。
 しかし、やはりごっくんしにくいらしい。うまい王もペペコンポタFもごっくんしては吐きそうと言っていた。これも高分子ポリマーの力だろう。
 こうして、再び年末の再会を約し、宴は終了した。
 世界滅亡を前にうまい棒を貪り、千年紀の終りに犬の餌を調理し、20世紀の末に暗黒の中世を再現し、光輝くような21世紀のはじめ、江戸時代の貧農気分を味わいながらカユをすすり、未来に向かってペペを喰った漢達に、100年の幸福を!

 帰りに私は、念願の「チョコエッグ」を一個買った。虫系の、脚に節のある生き物は本当に嫌いなので、エビだけは欲しくねぇなと思ってはいたが、こういう時はうまくいかないものである。チョコエッグに入っている動物の種類は公称24種類。他に色違いやレア動物も入っているのでおまけの種類はかなり多い。その中でエビが当たる確率など取るに足らないのだが・・・エビが当たる気がして仕方がなかった。不安を抱えながら、人気のない地下鉄の駅で卵を割る。
 緑色が覗いた。やった!エビじゃない!エビは灰色だもん!でもこれってなんだろう?四角いな。四角い動物・・・
 トノサマバッタだった。



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