四年間続いたアニメーション「おジャ魔女どれみ」シリーズが先日終了した。大変お気に入りのシリーズだったので非常に残念である。通常「無印」と呼ばれる第一シリーズが開始された日、テレビから流れてきた華やかなエレキギターの鳴き声に「よっしゃ!」と思わず叫んだことが懐かしい。
「おジャ魔女どれみ」シリーズのよさというものはたくさんあったが、特筆すべきは正にこの四年間に渡った時間経過の使い方と、もう一つ、シリーズの持つ「真面目さ」であったと思う。小学三年生から小学六年生までという四年間のスパンが当初から意識されて作られたわけではないだろうが、この長い時間を存分に使って、子供が大半を占めるであろうテレビの前の視聴者へ、真面目に語りかけていた。そこがよかった。
例えば、主要キャラクタの一人「妹尾あいこ」の両親を絡めたエピソード群はこれらの点において印象に残る。あいこの両親は一度離婚した。彼女は正に、両親に復縁して欲しいという思いを胸に、魔女見習いになるのである。その後、妹尾一家のエピソードはメインのストーリーラインと並行して展開してゆくのであるが、それは「家族みんなで暮らしたい、父と母に仲直りして欲しい」という、子供らしい素朴な思いを超えたレベルで語られてゆく。仕事上の立場や距離から来る父と母の擦れ違い、祖父との確執。そういえば、あいこの父親が勤めるタクシー会社が倒産し、精神的にも経済的にも追い詰められた父親から母親のもとへ、あいこが引き取られて行きそうになったというエピソードもあった。このような感じで、結局一年目から最終回のほとんど直前まで、妹尾一家の事情は粘り強く語られ続ける。そして、最終回にはこの一家のドラマに一応の結論が与えられるのだが、四年を通して語られたからこそ、その結末は、安易とは感じられなかった。少なくとも、私にとってはそうだった。
また、以上のような展開の中に垣間見える要素がひとつある。それは子供には通常知らされない「大人の事情」であり、絆や愛といったものでは容易に突き破れない「現実」の壁とも言えるものにほかならない。無論、本当の現実はさらに厳しく、容易ならざるものではあろうが、不充分であっても多少噛み砕いてでも、敢えて子供達に向けてこれを語ろうという作り手側の意志が妹尾一家のエピソード群においては強く感じられた。これが「真面目さ」なのである。
こんな例はいくつもある。かつてピアニストを目指していたどれみの母親と、その夢を継げなかったどれみを通して、子供の思い、親の思いを描いたエピソード「春風家にピアノがやってくる!」(第二シリーズ・第40話)。親しい人との死別について描いた「ももこが泣いた!?ピアスの秘密」(第三シリーズ・第2話)。小料理屋のママとして働く母親の姿が気に入らない男の子について描いた「きれいなお母さんはスキ?キライ?」(同・第15話)。不器用な父親の姿を描いた「お父さんは素直になれない!?」(第四シリーズ・第19話)など・・・どれも「大人の事情」に切り込んでいて印象深い。
そして「おジャ魔女どれみ」の持つ特質を最も端的に表現しているエピソード群はやはり、学校に行けない少女「長門かよこ」関連のエピソード群であったろう。第三シリーズ「も〜っと!おジャ魔女どれみ」の裏メインとも言えるラインである。あるトラブルから精神的に追い詰められ学校に行けなくなったかよこと、主人公どれみとの出会いを描いた「はじめてあうクラスメイト」(第20話)を皮切りに、「学校に行きたい!」(第38話)、「みんなで!メリークリスマス」(第45話)までの計三話、期間にして約半年をかけて彼女が再び学校に通うまでを描いたものだ。
彼女については、一話分を使って、手早く結論をつけるという道もあったように思う。だが、作り手側は不登校という難しい問題を語るにあたり、解決に要する長い時間という要素を(充分ではないにしても)「も〜っと!」に折り込んだのである。これは時間的な余裕のあるこのシリーズだったからこその描き方であったろう。時間の使い方、そして「真面目さ」が光るこういう描き方こそ、このシリーズの真骨頂ではなかったか。
また、現実世界に対するもう一方の軸、魔女界に絡んだエピソードや、子供同士の関わりを描いたエピソードにも、見るべき点は多い。語り出せばきりがないが、この文章についてはあまり長くしたくはないから、少々結論めいたものを述べて、幕を引きたいと思う。
「おジャ魔女どれみ」シリーズは不朽の名作ではなかったかも知れない。冴えないエピソードはいくらもあったし、マンネリ、ワンパターンといった各種の批判も理解できる。だが、「おジャ魔女どれみ」シリーズはその時間の使い方と真面目さにおいて、稀に見る良作であった。大人達が正面切って話しづらい話を臆することなく語り続けたその姿勢は、毎週日曜の朝、テレビの前に座っていた少女達と一部の少年達一人ひとりに、きっと何かを残したはずだ。
(2003/2/26)
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