ついに10年経ってしまった。うまい棒を食い合い、未来を誓ったあの日から。
この10年の間に、我々はさまざまなことを学んだ。
うまい棒を食い過ぎると口腔の上部が擦れて痛いこと。
烏骨鶏の足は肛門に詰められて売られていること。
辛さの単位は「スコビル」ということ。
猫用ペットフードは旨く、犬用ペットフードは不味いこと。
それらの知識を得る間に、我々も歳を取った。
だが、探究は止めまい。
今年の探究は「げっ歯類」だ。
子年だからである。


2007年12月31日。今年も会場宅に到着。しばしの待ち時間の後、ペペF、うまい神、うまい王、魔人Jが揃う。今や歴戦の勇士達である。これにメンタイCとやさいサラダDが後ほど合流するのも、例年通りだ。
今年は魔人Jがえらく重たそうな荷物を持ってきており、何かと思えば酢なのだそうである。酢を飲んで楽しもうというのだ。魔人らしく悪魔的な趣向である。でかいスポーツバッグの中から出てきたのは穀物酢、米酢、リンゴ酢、黒酢、ワインビネガー赤白、バルサミコ、飲むリンゴ酢、飲むブルーベリー酢、飲むブドウ&ラズベリー酢、飲むイチゴ酢、飲むバナナ酢、飲むマンゴー酢…ほかにもあったかも知れないがよく覚えていない。とにかく見ているだけで酸っぱくなる酢瓶の嵐である。
以前にも「すっぱいパーティーをしよう!」といったような話はメンバーでやっていたのだが、それを実現すべく魔人自らが酢を買い集めてきたということだろう。とりよせバッグよろしく次から次へと酢瓶を取り出す魔人の姿を見ながら、ペペFなどは手を叩いて喜んでいた。困ったもんである。これだけ大量の酢を買い込む人間を見て、酢を売る店の人は何を思っただろうか。
世の中にはたくさんの酢があるものだなあとひとしきり感嘆した後、我々は例のごとく買い出しに出かけた。ペペFによると肉は既にあるということだったので(もちろんろくな肉ではなかろうというのは誰もが分かっていた)キウイなどをはじめとする野菜を買い込む。この期に及んで香醋やレモン果汁なども買われたのは見事と言うほかあるまい。恐らく漢達はアルカリ性なのだろう。

食い物である
買い出しを終えて戻ると、ペペFによって今回食う肉が公開された。その姿を見て我々は戦慄した。
それは鼠であった。ペペFによるとクーイとかいう南米あたりの鼠だそうである。 だが問題はそのビジュアルだ。それは小さな兎ほどのサイズの鼠が丸ごとであった。全身の毛は抜かれ、内臓も取られた食肉処理済みのものだが、丸ごとは丸ごとである。それが余計に厳しい。顔などはもろに見える。別にそこらの鼠を取って捕まえたわけではない。ちゃんと養殖された食用の鼠で、現地でも普通に食べられているのであるが、このビジュアルは日本人には厳しい。
例によってペペFはこれを丸焼きにするという。現地では丸焼きにして食べるもんなのだそうである。ふうむ。
そしてもう一品。そう、鼠だけではないのだ。ペペFが嬉しそうに出してきたのはトカゲであった。全長20cmほどのトカゲ。トッケイトカゲとかいうそうである。トカゲというだけで日本人はギョッとしてしまうものだが、こいつはさらに色が凄い。青白い地肌にオレンジ色のイボがたくさんついているのだ。触ってみるとほどんど滑り止め付きの軍手の触感である。筆者は思わず「食えるのかこれは!」とペペFに詰め寄ったが、ペペFは「食える。食い物である」と断言した。まあそれならいいか。

永遠にちょっと近いブルー〜魔人の罠〜
テーブルに各種の肉皿が並ぶ。大皿には鼠が二匹。もう一つの大皿にはキウイと普通に食べる用として用意された鶏皮と鶏ハートの山。そしてその山から顔を出すトカゲ。会場が床の間付きのいわゆる座敷。はっきり言ってカオスであった。
そしてついに焼き物パーティが始まった。まずは普通においしいものを食おうということで、キウイや野菜などがホットプレートに並ぶ。メインはペペFとうまい王が事前になぜか鶴橋で買ってきた韓国物産類だ。前述の鶏皮と鶏ハート、ツラミなどである。ちなみに二人はキムチなども買ってきており、ホットプレートのサイドメニューとして機能した。これはかなり好評であった。スーパーなどで売っているものより辛味が強く、味が濃く、おかずにもつまみにも良いのである。問題は白菜一個分単位でしか買えないという点で、今回も鉢二杯分の量になっていた。
余談ではあるが韓国物産の中には青トウガラシの味噌漬も含まれていた。これはトウガラシなのだから当然辛い。恐らく1万スコビル前後はあるかと思われる料理である。筆者は以前食したことがあり大体どんなものか分かっていたので、カリカリと齧る程度にしておいた(辛いもの好きにはそこそこ楽しい一品なのである)。が、“ザ・イーター”魔人Jは違った。うまいうまいと言いながら、ほとんどかりん糖でも食らうかのごとくばりばりと食らうのである。しかもJは辛いものに異様に強いらしく、汗一つかかず「全然辛くない」と言う。ペペFとうまい王ははこの品を「トウガラシ」ということではじめ怖じ気付いていたのだが、魔人を見て様子が変わった。どうやら辛くないという魔人のささやきを信じてしまったのだ。筆者は止めた。それは魔人の言うことだ、信じてはいけないと。今までそれで何度痛い目にあったのかと。だがその叫びは二人には聞こえないようだった。筆者が守護霊ってきっとこんな気分なんだろうな的気分に辿り着いた瞬間、ペペと王はトウガラシを豪快に食った。
二人はその後、小一時間ほどブルーな感じであった。

漢たちの酢漬け
あらかた食べたところで酢パーティが始まった。まずは飲用の酢を試す。食前酢というわけである。飲用の酢というのは文字通り飲むための酢で、2倍〜5倍程度に希釈して飲む。最近流行りのスタイルで、東京あたりには酢ムリエがいて酢バーで酢を飲ますそうである。何やらギャグのような話だがほんとのことさ。とにかくリンゴやブルーベリー、ぶどう味の酢を飲んだが概ね旨かった。やさいサラダDあたりは酒に弱いのか、たくさん用意されていた酒類をあまり飲まず酢ばかり飲んでいた。しかしそれが仇となってその後朝まで胃痛で苦しんでいたのは秘密である。飲み過ぎである。酒でも酢でも結果は変わらなかったのだ。
さて、ここでメンタイCが彼女連れで登場する。いつもと変わらずにこやかな様子だったが、イルカの肉か何かを持ってくるという魔人Jとの約束を忘れていたため、いきなり地獄の酢カクテルを飲まされることになった。メンタイCはすぐにブルーな感じになった。
魔人Jがグラスにバルサミコを注ぎ、そこに焼酎を注ぎ、続いて水を注ぐ。いわばプレーンバルサミコカクテルである。メンタイCがごくりと飲む。不味そうである。が、飲めないほどでもなさそうだ。
とにかくこのままではつまらないのでさらにアレンジを加える。ハチミツやブルーベリー酢、レモン汁、謎の爬虫類を漬け込んだ酒などを投入して撹拌する。飲む。
その時、奇跡が起こった。
それは飲み物になっていた。酢の酸味とハチミツの甘味に爬虫類の野性味が加わった不思議カクテルの誕生である。まあ、旨くないと言う点では変わりなかったのだが。

王の一閃
いよいよメインがやってくる。
鼠とトカゲ。我々はさまざまなものを食べてきたが、こういうわかりやすいゲテモノが出てくるのは珍しい。余りにも分かりやすいのでメンバー皆写真を撮りまくっていたのだが、はっきり言って強烈すぎるのでここに掲載するのは控える。
はじめ半凍りだった鼠は、大皿の上で既にくったりと重なっていた。溶けたのである。そして鼠がホットプレートに置かれる。鉄板の上にぺったりと寝た鼠は一同に無常の思いを痛感させるのに充分であった。
鼠はこんがりと焼けてくる。いよいよ食うという時になって問題が発生した。
食いにくいのである。丸ごとがぶりつくと一同に行き渡らない。まず首を落とすべきなのだが誰も手を出さない。烏骨鶏のときに活躍したノコギリ的なテーブルナイフも登場したが、みんなジュージューいう鼠をただ見つめているだけだ。
そこで立ち上がったのがうまい王であった。王は刃を取るやいなや、電光のごとき素早さで民のために贄の首を切り落とした。それを合図にして民らは贄に殺到し、その肉を食い始めた。
って言うかそれで多少マシになった程度で、食いにくいことには変わりなかった。骨を抜いていない鶏を丸ごと食うようなもので、足とかが外れないのである(首は骨が切ってあり、皮だけ繋がっていた)。しかも身が少ないことが食いにくさに拍車をかける。一匹目はなんだか皆で貪っている間に無くなったが、二匹目で改めて解体に挑戦する。担当は筆者であった。
ノコギリナイフでぎこぎこと足を切ってゆく、が、切れない。骨が結構太いのだ。鼠というのは案外素早いし丈夫だから、骨もしっかりしているのに違いない。いくらか試行錯誤を繰り返すと、やがて切れる部分にぶつかる。そう、関節であった。不毛の地にオアシスを見つけたような気分。そこに力一杯ナイフを入れると足は綺麗に切れた。一同が感嘆の声を上げる。もうこれでクーイの解体をする時は大丈夫だ、君は新しいスキルを手に入れたという声が飛ぶ。だがこんなスキル、もう一生使うまい。
味についてだが、一言で言えば鶏っぽい。予想通りと言うかなんと言うか、とりあえず得体の知れない肉は鶏っぽいのが多いのである。皮は脂っぽくくにくにとしており、やはり鶏皮のようだった。
鼠は旨いものと言って差し支えない。

スーパーフード
一匹目と二匹目の間にトカゲも食った。鼠は食肉処理した感じが多少なりともあったが、こちらは完全にトカゲであり、肉らしさは微塵もない。しばらく経つ間に洗ったはずの血が流れ出て、横のキウイを赤く染めていた。なんかの呪いのようであった。
ホットプレートに乗せてもやはりトカゲで、単に部屋にでっかいトカゲが現れて居座っているのとほとんど変わらなかった。
そして時間が経っても何も変わらない。俺はトカゲじゃあとでも言っているように、トカゲはトカゲである。脂か何かが爆ぜるのに合わせてトカゲの頭がビクッと動くのが激しく怖い。本当に呪われているのかも知れない。おお。
しかしいつまでも待っていても仕方がない。ペペFがトカゲを裏返す。腹には内臓を抜いた切れ目が入っているが、そこから肉の状態を確認する。意外にも中の肉は白い。脂のようなものが浮き出ており、どうやら焼けてきているらしい。爬虫類の皮膚は熱に強いので焼けるまで時間がかかると思ったが、そうでもないようだ。そこからもうしばらく焼き上げ、それから食す。
が、またも解体という難関が我々を襲った。まず首を落とすべきなのだが誰も手を出さない。そこで立ち上がったのがペペFであった。(以下略)
トカゲはやはりほ乳類とは違って切りやすい。表面が焼けた感じになっておらず、青白い皮膚にイボ満載の状態で抵抗があったが、とりあえずペペFが胴部分をひっくり返し、切れ目から内側の肉を削り取って食った。
「苦い!」
ペペが悶絶する。以前にもこんなことがあった。ティラピアの時だ。10年もやってりゃ大概の状況に出くわしているものである。ちなみにこれは骨付近に苦い部分が残っていたのをたまたま口にしてしまっただけらしい。トカゲ全体が苦いわけではない。
では本来の味はどうなのかだが、これは意外なものであった。筆者は食べたことがないのだが、蛙やワニの味が鶏っぽいというのは有名なことだと思う。結局トカゲも鶏っぽいのだろうと思っていたのだが、違った。魚っぽいのである。身は白く、そこそこに脂がのっている。例えるなら脂の乗った鯛であった。青白くイボ満載の皮膚はこれまた魚っぽい。鮭の皮みたいなものだろうか。日本で魚の王様と言われる鯛と、100万石と引き換えにしてもよいと言われた実績を持つ鮭の皮。トッケイトカゲはこの二つが合わさったスーパーフードであったのだ。日本で暮らせばスーパースターになれた器ではないか。なんで日本で暮らさなかった、トッケイトカゲよ。

宴終わって頭三つ
食い終わって残ったのは頭であった。鼠の頭が二個とトカゲの頭が一個。かなりアルティメットな状況ではあったが、漢達はすでに見慣れていた。慣れとは強力だと、我々は知っている。メンタイCはトカゲの頭の部分を齧り(鯛やマグロの後頭部が旨いというところからの連想であろう)苦いといい、魔人は魔人らしくトカゲの脚を口から半分出しながら付け根の肉をしゃぶっていた。ちなみにメンタイCの彼女は鼠やトカゲを焼き、食っている間、ジャンバーみたいなものを頭からかぶって部屋の隅で震えていた。これが本来の反応である。

さて、これで今年の宴は終わりである。あとは何故かメンバーの間で小さなブームを起こしている将棋を指してみたり、DSで対戦してみたり、麻雀を打ってみたりして過ごした。10年目の記念大会は今年が10年目ということを誰も指摘することなく、鼠は鶏っぽい味でトカゲは日本的スーパーフードであるという知識を我々に残して去っていった。

(2008/1/4)

おまけ
家族が可愛がっている愛犬の餌を、ペペFがこっそり抜き取って持ってきていた(そうとう苦労したらしい。そんなもんに苦労しなくていいと思うが…)。ペットフードは以前食ったが、これは相当な高級餌らしく試してみたいということらしい。
品は缶入りの高級マグロフードとドライフード。我々の経験則では「猫はグルメ、犬は馬鹿」ということであったので、高級だろうがとにかく危険な試みである。だが。 犬缶、食ったら旨かった!いや、旨いというほどではないが、缶の方は少し野菜を混ぜて煮凝りで固めたツナフレーク(味なし)といった感じ。ドライフードは最悪の味という経験則をこれまた見事に裏切り、それなりに食える味であった。何だか草臭い感じの臭いとカリカリした食感で無味。ペペFはひまわりの種に少し似ていると言った。お酒のおつまみにぴったりであろう。
我々が毎年あれこれやっている間にペット産業は目覚ましく発展し、必ずしも犬グルメが不味いという時代ではなくなったらしい。高級フードは旨いのだ。こんなところにも格差の問題が忍び寄っているということだろうか。




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