大変なことである。ついにメンバーから20代がいなくなってしまった。不景気の痛みをもろに受ける30代だ。しかし漢達はひるまない。今年も食のワンダーランドへ。


食い物が多すぎる
2008年12月31日、筆者がいつもの会場宅に着いたのは午後7時頃だった。いつもの部屋に入ると、うまい神、うまい王とペペFがいた。王は横になって高いびきだ。 いろいろ疲れているのだろう。
と、言うのも王はまもなく、ついにとうとう結婚するのである。引っ越しなどはすでに済ませたらしい。ついに王妃誕生というわけである。
さて、会場のテーブルには毎度お馴染み、肉の塊が置いてあった。どうせ碌な肉ではあるまい。傍には手書きのメモが置いてある。書き手の人柄がどことなく見えるような、豪快で、それでいて優しい感じの字と文体である。ちょっと読むと、何何、「熊肉の食べ方……」。熊肉の調理法メモだった。ああ、熊か、助かった、と筆者は思う。
この会には毎年裏テーマがある。それは「干支を食う」というものだ。その習いからいくと今回は牛を食うことになるが、まさかそんなことは有り得ない。むしろ干支という縛りをノーカウントにして好きな食材を用意してもいいことになったと解釈した方がよい。何が出てきてもおかしくなかったのである。それが熊だ。現代社会ではあまり馴染みのない肉ではあるが、それでも日本人が昔から食べてきた肉だ。ありがたいチョイスであった。まあ、こういうことをパッパッパッと考えた自分の精神の作用には悲しいものがあるのだが。
ともかくそこに置いてあったのは熊肉のブロックに鹿か何かのレバーと心臓であるらしい。何でも王妃の縁者のマタギの人が提供してくれたそうである。メモもその人の手書きということだろう。マタギ界にコネクションがあるとは、さすがうまい王の妃である。
他にも部屋にはさまざまな物が置かれている。ひときわ主張しているのは駄菓子の山である。ぺらぺらのカツ風駄菓子やら蒲焼き風駄菓子やらラムネやら粉ジュースやらそういうものだ。尋常ではない量である。粉ジュースなどはでかい箱が3つある。小袋にすると150袋くらいだろうか。さらに特筆すべきはうまい棒だ。まさに我らの原点であるうまい棒が段ボール箱に一箱。魔人Jのリクエストらしい。前にやった第二回目のうまい棒大会で惨敗を喫した魔人はまたやりたいまたやりたいと常に言っていたのである。
やがてその魔人Jがやってくる。手には大荷物を抱えている。聞いてみると、「離乳食」らしい。最近の離乳食はさまざまな味があるため、それを味見しようという企画を練ってきたようだ。それにしても大量の瓶。店にある全ての味の離乳食を買ってきたのではなかろうかというくらいだ。……すでにうまい棒があるのだ。すでに人知を超えた領域にある量であった。

ドブの中の漢たち
えびHも合流したのち、買い出しに向かい、買い出しから帰り、調理を開始する。今回は鍋物にするということだったが、何でも熊肉というのは食べやすく細切れにした後、一度軽く茹ででから鍋に入れるものらしい。また、相性のよいものとしてゴボウやニラなどがあり、ベースは味噌などがよいということである。
熊肉こそまだできていなかったものの、あらかたの準備が終わった。しかし味噌は用意されていない。無論…彼らが普通に鍋を作るわけはないのであった。
用意されていたダシは、毎年お世話になっている中国食材店から買ってきた、四川火鍋とかいうペースト状のダシの素だった。純中国産商品である。中国食品にまつわる騒動が取り沙汰された今年だったが、彼らにはどこ吹く風なのである。それを沸騰した鍋の中に投入する。
凄かった。まず臭いが凄い。はっきり薬の臭いである。漢方系のスパイスがたっぷり入っているのだろう。さらに色が凄い。黄色がかったような青色がかったような灰色、すなわちドブの色なのであった。
とりあえず白菜を投入し、食す。
「まずい!」
思わず叫んだのは筆者である。それは言ってはならんというように批難の目が注がれる。何があってもまずいと言っちゃだめ的な暗黙の了解がこの会にはできている感じだからだった。しかしまずいもんはまずいのだ。破壊的でネタになるほどでもなく、うすぼんやりとまずい。面白くも何ともない単なる失敗料理のまずさだ。こんなものはまずいと言うほかない。
どんな味かというと、四川と言うだけあって非常に辛い。1000〜1500スコビルくらいはあると思われた。まあ、それはそれ、本場の味ということで悪いものではない。問題はそれ以外の味がほぼしないことだった。塩味も甘味も酸味も苦味もなにもしない。中華の五味はどこいったんだ。辛味というのは塩味などを増幅させる効果があって、薄味でも結構な満足感を得られるはずだが…
それもそのはずであった。捨ててしまっていた外袋を引っ張りだし、なんとか解読したところ、このペーストはまさにダシで、それ以外の細かい味付けは別にするものだったのだ。そこで我々はほかに買ってきてあった鍋用の調味料をたっぷりぶちこんでやる。これで味が整った。
さあ、食べよう。そう思った瞬間である。ペペFが早くも暴挙に出る。鶏丸ごとの投入であった。何でも「安かった」という理由で二羽も買ってきていたらしい。一羽280円也。いくら安くてもそんなの買わなくていいのに…
さらに大量に用意されていたのが豚の尻尾だ。ダシを取るのなどに使われるやつだが、なんか見た目がグロい。つるんとしてぷりんとした肌色の筒状のものであった。それをどぼどぼと鍋の中に入れる。思った通り、鍋の中は大混雑である。ドブ汁の中に肌色の何かと鶏丸ごとがぎゅうぎゅうに詰まっているのだ。以前紫色の鍋を作った時と似た感じになってきたが、今回はドブ色である。悲しい。我々はわずかに残った隙間で白菜と肉(熊ではない、別口で買ってあった羊肉)を煮て食べた。とりあえず味はうまい。そのうちにやさいサラダDがやってきて、合流する。

クマーうまー
やがて熊肉が来た。大皿にこんもりと細切れの肉が盛られている。もちろん既に火は通っていた。それをどぼどぼとドブの中に入れる。なにぶん熊肉は初めてなのでどの程度煮たらいいかわからないが、とりあえず長めに煮る。「未知の肉はいくら煮ても煮過ぎということはない」。これはうまい神の言葉だ。けだし名言である。
そして食う。
「うまい!」
誰ともなく叫んだ。その叫びはうねりとなり部屋を満たしてゆく。はたして熊肉は旨かった。知識としては「臭い」「固い」というのがあったが、実際の熊肉はそうではなかった。多少噛みごたえはあったものの、噛み切れないほどではない。いや、思っていたよりずっと柔らかいのだ。アザラシ肉やヤギの皮の方が数倍固い。また、臭みも少々はあったが気になるほどではない。脂の部分も少し混じっていたが、やはり臭くはない。むしろ脂は旨い。肉と一緒に口の中に入れるといい組み合わせだ。メモに書いてあった調理法を守ったこともよかったのだろう。ともかく、熊肉は大変に美味であった。冒険だった純中国産鍋の素も、熊肉にぴったり。漢方スパイスがよく合っていた。マタギと中華の奇跡のコラボレーションであった。熊には四川。覚えておこう。
例の鹿だかなんだかの肉も、生姜と醤油などで甘辛く炒めて出された。こちらも非常に旨かった。多少獣臭さはあるが、それがある意味アクセントになっている。野趣溢れるニラレバ炒め(ニラ抜き)という感じだった。
なお、これらの調理はうまい王が行ったものである。実は王はメンバーの中でもかなり料理ができる方なのである。この腕前を毎年別な方向に使っているのが惜しい。
さて、ほかの食材も紹介しよう。まず缶詰だ。も北海道のトドの缶詰、熊の缶詰、あと蜂の子などである。トドと熊は非常においしかった。と言うか、ごく普通の肉の缶詰であった。臭みもないし、焼き鳥の缶詰か鰹のフレークか、なんかそういう感じの食べ物である。
さて、ここでその他の食材にも少し触れておこう。
まず中華春雨。これも純中国産品で、褐色の乾麺がぐるぐるととぐろを巻いており、そのとぐろが幾つか袋に入っているものだ。見た目は鳥の巣を彷佛とさせる。原料はよくわからないのだが、袋に「紅芋」の字が見えたから芋ベースなのだろう。味は非常に旨かった。コシのあるマロニーちゃんと言おうか、米の麺と言おうか、そういう感じのものである。熊の出汁とか、豚の尻尾の出汁とかがほどよく出てきていたし、辛味も大変こなれてきていて、それらを麺がよく吸収しており、絶品と言ってもよかった。
そしてなんだかわからない川魚。中国食材店で買ったらしい。見た感じはフナなのでフナの一種であろう。これも例によって丸ごと鍋にぶち込まれたので鍋のビジュアル的には最悪である。しかもいつが食い頃かどうかも分かりにくく、神の言葉に従ってひたすら煮ていたらついには全体がぐずぐずにくずれ、しまいには巨神兵さながらの姿になっていた。腐ってやがる早過ぎたんだではなく腐ってやがる遅過ぎたんだ状態であった。

偽者は貴様だ!
ここで大量に買われていた駄菓子が登場する。鍋にぶち込むわけではない。あろうことか、こやつらそれらを使って「巻寿司」を作るらしい。なんでそういうことを思い付いたのかはよく分からないが……ともかくそういうことになったのである。
どこからともなくご飯が用意された。わざわざこのために炊いておいたらしい。この10年、ご飯など一度も出てきたことはなかったのに。
ご飯の中に入れられたのは、あの大量に用意されていた粉ジュースだ。そうか、こいつのためにあれが用意されていたというわけか。料理好きのうまい王は「酢飯は甘味と酸味のバランスが大事。粉ジュースはその両方を備えているので、酢飯と同じような味になるはずだ」と主張している。筆者は軽い目眩を覚える。
粉が投入されると、米がみるみるコーラ味のこげ茶色に染まっていく。うまい王が一口食べる。
「おお、酢飯そっくりだ!」
嬉しそうに叫んだ。うまい神や魔人Jなども口に入れる。けっこううまい、全然いけるなどの感想が漏れ聞こえてきた。筆者も一口食べたが…
予想通りの味であった。何と言うか…たしかに酢飯に似ている。が、やはりそれは偽の酢飯に過ぎなかった。ウルトラマンで言えばどう見ても目が釣り上がっている感じであった。甘味が強く、酸味が弱い。酢飯の偽者と言われるために生まれてきたような悲しいご飯なのである。その時は言わなかったが、ここで筆者は言おうと思う。あれはまずかった。
心中ダウナー状態の筆者であったが、それとは関係なくコーラご飯がのり巻きの海苔に乗せられる。そこに駄菓子を乗せるというわけである。ラムネみたいなものやヨーグルト(ポーションミルクみたいな容器に入ったものを木ベらで食べるアレだ)などを乗せ、巻く。

……
………
王は結構うまいと言った。他の人間も食べる。あ、案外いけるというような感想だった。米を使ったデザートというのが世の中には普通にあるから、そういう感じなのだろう。コーラ飯にしたって、そういう米デザート的なカテゴリのものだと言えばまあ世界的にはスタンダードなのかも知れない。
それからも偽のり巻き大作戦は勧められた。強烈だったのは粉ジュースソーダ味をまぶされた偽酢飯である。鮮やかなエメラルドグリーンに染められたそのビジュアルは筆舌に尽くし難い。以前ネット上で「青いご飯は食欲を抑制するのでダイエットによい」というネタが少し流行ったことがあったが、あれと同じようなもんである。日本人の本能に訴えかけるイヤさなのである。
そこにまたさまざまな駄菓子が乗せられる。もっともインパクトが強かったのは駄菓子ゼリーだ。これが不思議な形をしていて、直径1cmほど、長さ20cmほどの棒状なのだ。原料はこんにゃくなのでコシが強い。色は紫だった。それを短かめに切ってのり巻きに入れるのである。
海苔。緑の酢飯。紫のイカ。日本人なら泣きわめきたくなるような巻き寿司であった。巻いて切断すると結構美しいのがまた悲しい。こうなるともう頭がほとんど寿司として認識していない。なんか綺麗な細工物というような印象であった。
ほかにも王やペペFや魔人は一生懸命偽寿司を作っていた。王が寿司にガムをぶち込んだ時は一斉に批難を浴びていた。実際に食うと王は悶絶してぶっ倒れた。やはりとんでもなくダメな代物だったようだ。
このあたりでメンタイCが合流した。まだ日付が変わる前である。独りである。まあ詳しくは書かないがいろいろあったメンタイCには早速偽寿司が振る舞われていた。緑の断面を見た時はさすがに固まっていたが、食ってみてそこそこ旨いとか言ってのけたのはさすがであった。
ちなみに漢たちは作られた偽酢飯は全部食った。それどころか用意されたご飯は全部消費したのである。これもさすがであった。と言うか、本当に皆そこそこ旨いと思っていたのかも知れない。あの場で変なのはむしろ筆者の方であった。

おいしかった会
その後の会は穏やかなものであった。鍋には全てを包み込み優しく癒す救世主・カレーが投入された。四川の漢方スパイス、豚尻尾のダシ、鶏一匹のダシ、熊の脂など全てがカレーによって統合され、ぶっちゃけこの10年ほどで一番旨いカレーになっていたかも知れない。なお、豚尻尾はよく煮込まれていて食っても旨かった。豚息に煮ていたが、以前の豚足のように、齧るとシャリッというようなことももちろんない。鶏丸ごとのほうは後から気付いたのだがどうやら食うものではなかった。どう頑張っても皮と筋ばかりで肉が取れないのだ。皮さえもゴムのようでまるで食えない。ダシ取り専用の鶏であったようだ。まあ、結果としてはカレーが旨くなったのでよかったのである。
その後は各々、おしゃべりをしたり細切れの睡眠を取ったりして過ごし、明るくなる頃にはまた各々帰途についた。
もちろんうまい棒は全量余った。

(2009/1/4)

おまけ
いつも最後に残るメンバー(大抵うまい神、うまい王、ペペF、筆者である)で後処理などをするが、その時余っていた蜂の子を食った。まず缶を開いた時に衝撃。てっきり芋虫みたいなものか、もしかしたら白い蜂(さなぎ)がてんこもりに入っていると思っていたのだが、なんか小さな蛆みたいなものがいっぱいいっぱい入っていたからである。ミールワームみたいなもんとは言え、ある意味芋虫や蜂よりきついビジュアルだった。
肝心の味だが…まあまずくはないのである。何の味に似ているということもないが、蜂蜜をたっぷり使った何かの佃煮という感じだった。とりあえず食べている最中は皆「これは虫じゃない」と思い込もうとしている感じだった。
その後、段ボール箱一杯のうまい棒をみんなで分けた。部屋中にうまい棒を広げ、あれやこれやとみんなに分配しているさまはほとんど子供会のお正月会であった。
一人に当たった本数は90本。筆者はたった今もそれを食べている。




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